「毎回、一発勝負と思って役を演じていた自分にとって千夏は、初めて“同じ役を何度も演(や)る”という稀有な存在であり、新鮮な体験でもありました」と2003年の『FOREVER』の記者会見で江角さんは『ショムニ』の5年間をそう振り返った。
それは千夏こそが、江角さんの思う“こうありたい自分”の理想像だったことを意味していた。まさに “女優とハマり役の幸運な出会い”があったのだ。最初はあのミニスカートが嫌だったという江角さんも、『ショムニ』第4シリーズ時の記者会見では「またあのスカートがはけると思うと嬉しくって」とまで語るようになっていた。
“愛されるキャラクター”に変貌させたカギは…
さらにそんな江角さんの理想像を“庶民にも愛されるキャラクター”に昇華させたのは、本作のチーフディレクター・鈴木雅之の手腕だった。
『ショムニ』には鈴木の他にも土方政人、平野眞(後に本作が縁で江角さんと結婚)ら優秀なディレクターが集ったが、『ショムニ』のあの独特な世界観を創造したのは鈴木だった。
鈴木は制作会社ベイシスで『世にも奇妙な物語』シリーズ(’90年~)などを多数演出したあと、’94年にフジテレビに移籍。松雪泰子主演の『白鳥麗子でございます!』(’93年)でチーフディレクターに昇格。以後『王様のレストラン』(’95年)、『ロングバケーション』(’96年)など、様々なジャンルの話題作を次々に手がけた。
その硬軟織り交ぜた実績に基づく演出技法がこの『ショムニ』で最大限発揮された。江角さんが真剣に演じれば演じるほど視聴者の目には時にコメディチックに、時にかっこよく美しく映ることとなり、彼女のハマり役となったのだ。
もちろんドラマは主役ひとりだけでは成立しない。他のショムニ・メンバーも素晴らしかった。情報通のチャッカリOL・徳永あずさ役の戸田恵子、男たらしの魔性OL・宮下佳奈役の櫻井淳子、頭脳明晰OL・丸橋梅役の宝生舞、天然系占いOL・日向リエ役の高橋由美子、そしてドジっ娘OL・塚原佐和子役の京野ことみら個性溢れるメンバーは、当時としては“これ以上考えられない”絶妙なキャスティングだった。
2022.10.28(金)
文=岩佐陽一