創立時より、その企業哲学を体現する社会貢献に取り組んできたロレックス。2002年に創設された「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」は、芸術遺産の継承を目的とする社会貢献活動のひとつだ。その2020-2022年度プログラムの成果を披露するイベント「ロレックス アート・ウィークエンド」が2022年9月9日、10日の2日間にわたりNYブルックリンにあるBAM(ブルックリン音楽アカデミー)で開催された。

 メントー(巨匠)の才能と、若きプロトジェたち(生徒)の才能が結びつき生まれた芸術の数々がNYを彩った華やかなウィークエンドをお見せしよう。

さまざまな分野のアートの祭典が華麗に開幕

 華麗なオペラハウスの建物の前に響き渡るゴスペル隊の歌声。そのコーラスに、道行く人たちも足を止めて聴き惚れ、いっせいに拍手が鳴り響く。ブルックリンという土地柄が育んできたカルチャーが観客たちを迎える。

 ここは19世紀からNYの舞台芸術を担うシアター、BAM(ブルックリン音楽アカデミー)だ。歌声に導かれ、「ロレックス アート・ウィークエンド」に集った観客たちは、壮麗なオペラハウスへと足を運ぶ。

 ロレックスは古くから芸術家をサポートしてきたが、「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」は、世代を超えた芸術的な知識と技術の伝承を促進するため、2002年に創設された。

 メントーとはフランス語で指導者を意味し、プロトジェは生徒という意味を持つ。つまり日本語でいうところの師弟関係だ。世界的第一人者を指導者とし、新鋭アーティストを生徒として引き合わせ、一対一の相互交流を通じ、芸術の永続的伝承を目指すプログラムなのだ。

 プログラムには舞踊、映画、文学、音楽、舞台芸術、視覚芸術、建築、そして多分野にまたがる活動をカバーするオープンカテゴリーの分野があり、過去のメントーにも巨匠たちが綺羅星のごとく並ぶ。

 たとえばノーベル賞作家のトニ・モリスン、建築家のサー・デイヴィッド・チッパーフィールド、画家のデイヴィッド・ホックニー、音楽家のフィリップ・グラス、オペラ歌手のジェシー・ノーマン、映画監督のマーティン・スコセッシ、歌手で音楽家のユッスー・ンドゥールなど、一流アーティストが名を連ね、日本からも建築家の妹島和世や舞踏家の勅使河原三郎がメントーを務めている。

 こうした一流の芸術家から直に導いてもらえることは、若きアーティストたちにとっては一生に一度の夢のようなチャンスだろう。プログラムは通常2年間を1サイクルとするが、パンデミックを経て開催された今回は、2020-2022年度の集大成として各プロトジェによる作品が披露された特別な「ロレックス アート・ウィークエンド」となった。

世界的アーティストがメントーとなり、多様性ある芸術を

 2020-2022年度のメントーたちもまた驚くほど豪華な顔ぶれだ。世界的に知られる映画監督のスパイク・リー、舞台演出家として著名なフィリダ・ロイド、視覚芸術家として名高いキャリー・メイ・ウィームス、ミュージカルの作者や映画音楽の大家として知られるリン=マニュエル・ミランダらがオペラハウスの壇上に並ぶ。

 そして、それぞれのメントーが選んだプロトジェが、映画監督のカイル・ベル、舞台演出家のホイットニー・ホワイト、ビジュアルアーティストのカミラ・ロドリゲス・トリアーナ、映画監督のアグスティナ・サン・マルティンだ。

 実は今回の祭典がNYで行われたことには、意味がある。メントーのうちリン=マニュエル・ミランダは生粋のニューヨーカー。スパイク・リーはNY大学映画科卒で、彼の映画制作会社はBAMからほど近いブルックリンにあり、彼自身もNY市に住む。キャリー・メイ・ウィームスはNY州に居を構える。

 2020-2022年度が従来と大きく違ったのは、2020年、パンデミックが世界を襲った年に開始されたことだ。壇上に集ったメントーたちの誰もが口にしたのが、この困難のなかでの作業だった。

 「きれいごとは言えないからハッキリ言うが、コロナの影響は本当に大変だった」とスパイク・リー監督は語る。

 NYは世界でももっとも感染者数と死者数を出した都市のひとつとなり、都市機能を一時停止するロックダウンに入った。通りからは人の姿が消え、野戦病院ができ、遺体を安置する冷凍庫が病院の前に置かれた。2020-2022年度はそのなかで続けられた。

 「まだワクチンが開発される前の状況下で、人を優先して、プログラムを進めてくれたロレックスに感謝します」とミランダはふり返り、またロイドもこう話した。

「今回のように芸術家が家に閉じこもった時ほど、メントーが必要とされた時はなかったと思います」

 メントーのプロトジェへの指導はオンラインを利用し遠隔で行われ、映画の撮影などもアメリカ疾病予防管理センターが定める規定に従って行われた。今までのプログラムにはない困難なチャレンジとなったが、その成果はコロナ禍による分断があったとは思えないほど、すばらしい作品を生んだのだった。

 そしてまた今回の人選を見ていて気づくのは、ロレックスがこのプログラムにおいてダイバーシティに重きを置いていることだ。

 メントーは男性と女性が二人ずつ。人種もアフリカン・アメリカン、ラテン系、ヨーロピアンとバラエティに富んでいる。プロトジェも、ネイティブ・アメリカン、アフリカン・アメリカン、メスティーソ(ヨーロッパ系と先住民の先祖を持つ多人種系の人を指す)のコロンビア人、そしてアルゼンチン人と多岐にわたる。

 かつて芸術の世界では、歴史的に長い間、男性の指導者に男性の生徒がつくというシステムが続き、多様性を持つ芸術家が出てくるのが難しかった。だからこそロレックスのように世界的に影響力を持つ企業によるプログラムが、積極的に多様性を持ち込むことは、芸術の発展にとって大きな意味を持つ。

 そして今回の作品を見ていくと、いかにそれぞれのアーティストが「自分の出自や民族」そして「自分の物語」にこだわって制作しているかがわかる。

 では、ひと組ずつメントーとプロトジェが成し遂げた作品について見ていこう。

2022.10.31(月)
文=黒部エリ