この記事の連載

道すがら集落の人たちの暮らしぶりに思いを馳せる。それも灯台旅の魅力

 現地では「のと里山里海ミュージアム」館長の和田学さんと、灯台を管理している海上保安庁の方々が待っていて下さった。

「久しぶりです。安部さん」

 和田さんから気さくに声をかけられ、昔のことをいっぺんに思い出した。

 等伯の取材のために初めて七尾市役所を訪ねた時、親切に対応して下さったのが当時文化課におられた和田さんだった。彼は観音崎にある集落にお住まいで、父上は灯台の監視員をしておられたという。

「昔は海沿いの車道なんかなくてね。山の中の道を通って小学校に通ったものですよ」

 そう言いながら灯台へつづく道を勢い良く登っていかれる。道の側の小さな畑には野菜が植えられていて、平地の少ない岬で生きてきた人たちの暮らしぶりがうかがえた。

 観音埼灯台は東の富山湾に向いて建っていた。建物は白色塔形で地上からの高さは11.8メートルだが、これに岬の高さを加えれば灯火までの高さは32.3メートルになる。

 単閃白光の灯火は8秒ごとに点滅し、16海里(約30キロメートル)まで届く。光の色と点滅の間隔で、遠く離れた海上からも観音埼灯台と分るのである。

晴れの日には立山連峰が見えるという

「昔はここに官舎があり、灯台守の人たちが住んでいました。しかし昭和61年に自動化され、人手がいらなくなったのです」

 内部に設置された階段を登り、灯台に上がらせてもらった。手すりをつけた丸いテラスがあり、あたりを一望することができる。

 東には満々たる水をたたえて富山湾が広がり、その向こうに立山連峰が連なっている。あいにくの曇天で山の中腹まで雲におおわれていたが、能登の人たちは立山が見えた日の翌日は雨になると言い習わしているのである。

 北側には小口瀬戸があり、大型船が通行可能な範囲を示すために、円筒形のブイが二つ設置してある。その間隔は案外狭い。遠目だから正確とは言えないが、200メートルほどだろう。

 その周辺は岩礁がつづく浅瀬になっているので、夜間に進路を間違えたり嵐の時に吹き流されたりしたなら、たちまち座礁して身動きが取れなくなってしまう。灯台はそうした事故を防ぐ役割を荷っているのである。

能登観音崎灯台

所在地 石川県七尾市鵜浦町
アクセス 国道160号を北上。岬方面へ県道246号進むと舗装路の終点手前に観音崎会館がありその駐車場の県道を挟んで反対側に灯台入り口があり。
灯台の高さ 11.8m
灯りの高さ※ 32m
初点灯 大正3年
https://romance-toudai.uminohi.jp/toudai/notokannon.php
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。

海と灯台プロジェクト

「灯台」を中心に地域の海と記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/

海と灯台学

定価 1,650円(税込)
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灯台は日本と世界の接点にあり、江戸末期以来の日本の近代化を見守り続けてきた象徴的な存在。その技術、歴史、そして人との関わりはまさに文化遺産です。四方を海に囲まれた日本ならではの灯台の歴史と文化を、これまでも海洋課題に取り組んできた日本財団が編纂しました。美しい写真とともに、日本近代のロマンを楽しんでください。

【出典】
オール讀物 2022年 11 月号(「小説家」になる!&秋の「読切」ミステリー祭)

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次の話を読む歴史と文化を感じる新たな旅 “灯台めぐり”に出かけよう 石川県・能登観音崎灯台【後篇】