この記事の連載
- 福島県小野町「昭和羅漢」【前篇】
- 福島県小野町「昭和羅漢」【後篇】
まだまだ登場する個性的すぎる羅漢様の数々
と、その豊年羅漢のすぐ隣に、年季の入った本物の羅漢っぽい石仏が……って、ムンク!? 「うぎゃーーーー!!」って、声が聞こえてきそうなほど、何でこの方、叫んでるの? これはあの名画「叫び」の3Dバージョンなのか。
人生に何があった?
石碑を読むと、頭を抱えて絶叫していらっしゃるそのお姿通り、「絶叫羅漢」というらしい。
羅漢がなぜ精一杯、叫んでいるのか、一切、説明はなし。いったい奉納した方の人生に何があったのか。平成六年奉納と書かれているから、「バブルが崩壊した~!」なのか、それとも「女房が逃げたぁ~!」なのか、ただ謎が深まるばかり。もしかして、これは「一寸先は闇」という教訓を後世に伝えようとしているのか?
私は気が付いてしまった
気持ちの整理が追いつかないまま、強烈な視線を感じて振り向くとそこには、またもや斜め上すぎる羅漢が。なんと、真顔で指を逆立てて挑発! もはや理解不能だが、何か挑まれているのは間違いない。モヤモヤとした気持ちを抑えきれず、そのやんちゃすぎる挑発羅漢をじっと見つめていると……私は気が付いてしまった!
……「この人、マイボール持ってる!」ってことに。その証拠に玉の頭頂部にくぼみもある。「ケンカ上等ポーズ」ではなく、ボーラー羅漢様であったか。ボーリング大会でナンバー1を宣言しているのか、それとも精神統一をしてマイボールに指を入れるマイ儀式なのか。いずれにせよ、奉納した人は無類のボーリング好きであったのだろう。これもボーリングが大流行した昭和ならでは?
その微笑みに震える
もはや駐車場だけでお腹いっぱいであったが、私は気を取り直して本堂の満福寺で参拝した後、五百羅漢の本陣が控える観音堂までの山道を進むことにした。
江戸時代に植え始められたという、美しい杉並木を遠目に見ながらカメラを構える。すると、いきなり四角い顔認証のセンサーが作動し、一体の羅漢をとらえた。パナソニックのデジカメは石像でも反応するのか。ズームしてピピッ! とピンが合ったとたん……ヒッ! と体が震えてカメラを落としそうになった。どうしよう、すんごい笑顔が邪悪なのだけど!
ううむ、何というか、「お主も悪よのう」という囁きが聞こえてきそうな「悪代官羅漢」と例えればいいのか。いや、「ひひっ、姉ちゃん、この先に何があっても知らないぜ!」とでも予告しているのか。
まてまて、羅漢はお釈迦様のお弟子である。だから、ええと、邪悪に感じてしまうのは、自分の心が黒いからかもしれない。この含み笑い……いや微笑みは、きっと参拝客を見守ってくれるアルカイックスマイル。そうに違いない。と、むりやり信じて、さあ、山を元気に登ろう。さらにステージを一段上げて攻めてくる羅漢に衝撃が止まらない後編につづく。
東堂山満福寺 五百羅漢像
所在地:福島県田村郡小野町小戸神日向128
アクセス:郡山駅からバス小野線で50分。行定停留所下車、徒歩45分。または車で磐越自動車道小野I.C.より10分ほど。
参拝メモ:東堂山参拝の帰りに、地元の人で賑わっていた洋食屋「KITCHENフライパン」へ。値段はお手頃、味は本格的。おすすめです。
白石あづさ
ライター&フォトグラファー。3年に渡る世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。Twitter @Azusa_Shiraishi
Column
白石あづさのパラレル紀行
「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきたライターの白石あづささんが、旅先で出会ったニッチなスポットや妙な体験談をご紹介。
2022.10.02(日)
文・写真=白石あづさ