この記事の連載

 災害大国の日本では、災害が「いつ起こるかわからない」ではなく、「いつ起こってもおかしくない」という意識で備えておきたいもの。

 そこで、“日頃から楽しく備える”ことを提唱しているアウトドアライフアドバイザーの寒川一さんに、アウトドアの道具やスキルを生かした防災術を教えてもらいました。

 災害時に役立つ「衣・食・住の組み立て方」を3回にわけてお届けします。初回は「衣」編です。


助け合いの精神から生まれた「アウトドア×防災」

 東日本大震災の翌年から、「アウトドア×防災」をテーマに活動を始めた寒川さん。アウトドアと防災をつなげるきっかけは、その少し前にさかのぼります。

 「東日本大震災の2年ほど前に、アウトドア用品の輸入会社『エイアンドエフ』の創業者で会長の赤津孝夫さんが書いた文章を読む機会があったんです。その内容が、“災害は必ず来る”という書き出しで始まって、“あなたたちは、なぜアウトドアをやっているかわかっていますか”という問いかけがあって。

 当時は自分のためにやるものだと思っていましたが、その文章には、“日頃から生きるための英知や技術を訓練しているアウトドアズマンは、災害時においてリーダーになるべき人たちである。その日が来たら率先して人を助けて、自分たちの持っている技術や道具を惜しみなく与えよ”というようなことが書いてあって、はっとしました。

 中学生の頃から自分のためにやって来たアウトドアが、災害を生き抜く術になり、さらには人助けもできる。アウトドアズマンにこのマインドが備われば、アウトドアは単なる趣味ではなく、社会に役立てられるものになると初めて気付いて、身震いがするほど感銘を受けました」

命を落とすタイムリミットを示す「3の法則」とは?

 赤津さんの文章を読んだ2年後に東日本大震災が起こり、「災害は必ず来る」ということを身をもって実感した寒川さん。

 これを機に、震災から1年後の2012年、寒川さんは「楽しみながら備える」をコンセプトにした防災キャンププログラム「STEP CAMP」をスタートしました。

 「STEP CAMPの名目は防災ですが、現代人が忘れてしまった“人が生きる方法”を子供たちに伝承する目的で始めました。火をおこす、水を調達するなど、昔は当たり前にやっていた生きる術からすっかり離れた生活をしているので、ライフラインが絶たれてしまうと生命の危機に直結してしまうのが現状です。

 そこでSTEP CAMPでは、サバイバルの世界でいわれる『3の法則』をもとに、“火起こし”“飲み水の調達”“体温を守る”という3つに重点を置いて、災害時にも役立つ知識や技術を教えています」

 この「3の法則」とは、「3分」が呼吸、「3時間」が体温、「3日」が水分、「3週間または30日」が食料を示し、それぞれの時間内に確保できなければ命を落とすタイムリミットとして考えられています。

 「日本には”衣食住“という言葉があって、生活の三大要素とされるものですが、呪文のように日本人の中に浸透していますよね。これが、食衣住とか住食衣ではなく、“衣食住”の順番が変わることなく、先人たちから渡されて来ていることに大きなメッセージを感じています。

 それは生まれた瞬間から始まっていて、お母さんの体内から出た赤ちゃんは、まず布で包まれ、それから母乳を与えられて安全な場所に移動するという、まさに衣食住がそのまま生きるための優先順位になっているんです。

 アウトドアの道具と技術を備えることは、ライフラインがない場所でも”衣食住”を組み立てられるということ。遊びを通じて災害に備える力を養うことで、受け身になりがちな訓練では得られない生きた知識が身に付いて、身近な人たちに手を差し伸べる心のゆとりも生まれるでしょう」

2022.10.01(土)
文=田辺千菊(Choki!)
撮影=深野未季