私たちは沖縄に「理想」を押し付けてはいないか
あなたが本作は「沖縄をバカにしている」と思うとき、あなたはそもそも沖縄のことをどういうものだと理解していますか。ガイドブックに載っている透き通ったきれいな海、カラフルな熱帯植物、おいしい沖縄料理、「なんくるないさー」と言ってくれそうな優しくおだやかな人々を思い浮かべた人は多いのではないでしょうか。
怖く、冷たく、ビジネスライクな土地として語られる東京などの都市に対して、沖縄はいつでも、優しく、あたたかく、癒やしてくれる美しい場所として語られてきました。それゆえに沖縄は本土の人から愛される場所になっています。
でも、それはあくまで観光的側面としての沖縄です。私たちが沖縄をみるとき、沖縄が抱える暗部には目を背け、きれいな側面だけをみていたいと思っているのではないでしょうか。
本作を「ちゅらさん」(2001年前期の朝ドラ。国仲涼子主演)と比較する声もありますが、「ちゅらさん」が評価されているのは、「美しく優しい沖縄」という本土の人々が沖縄に押し付けたイメージをそのままドラマでも体現してくれて癒やされたからという面もあると思うのです(もちろん脚本もいいのですが)。
本土で思い描かれる沖縄の姿と現実の間には、「幻想」とも言えるギャップがあります。「ちゅらさん」「純と愛」「ちむどんどん」……と沖縄が舞台の朝ドラは3作ありますが、(不完全ですべて正しく伝えられているわけではないですが)個人的に今作が一番沖縄のことを「知れた」気はしています。
「ちむどんどん」が伝えてくれた“やさしくない”沖縄の姿
「ちむどんどん」は沖縄の歴史も反映されている部分があります。まずは本土復帰。ここは本来肝の部分なのでもっと丁寧に扱っても欲しかった。ただ、沖縄における「アメリカ世」の姿をドラマで描こうとしたのは画期的だったと思います。
つぎに「琉球人お断り」等、沖縄(県民)への露骨な差別があった話。ただこれは、不当な偏見に抗った鶴見の沖縄県人会の話として三郎(片岡鶴太郎)が軽く語っただけで、ヒロイン暢子が直接的に差別の被害を受けていないので伝わりづらかったかもしれません。
そして沖縄戦。空襲や戦時中の社会のムードなど被害の側面とともに日本人の加害者性を描くのは近年の朝ドラのトレンド。今作もそこは踏襲されていますが、日本で唯一民間人を巻き込んだ大規模な戦闘が行われた沖縄は、本土の人の戦争経験とは全く異なります。これは一人の語りや回想だけでは到底表現できない部分。そこで、いろんな人の多様な戦争体験が同時に語られるという方法を取ったことはとても評価できることだと思います。
那覇で無差別攻撃「10・10空襲」を経験し、逃げている途中で家族とはぐれ、ひとり収容所で弟を看取った優子(仲間由紀恵)。招集されて大陸で従軍し、「謝らなければならないこと」を経験して、復員後もすぐに沖縄に戻れなかった賢三(大森南朋)。長年、沖縄で遺骨収集をしている嘉手刈さん(津嘉山正種)……。(ただ、それだけでも語りきれないのが沖縄戦。民間人に自ら死ぬことを強いた「集団自決」や日本軍が住民を殺害した事実などはドラマでは扱っていませんが、自ら学んでいく必要があることです)
さらに、兄が沖縄戦で戦死した田良島(山中崇)、シベリア抑留を経験した三郎、鶴見で空襲を経験し妹を亡くした房子(原田美枝子)の話など、戦争の傷が広く語られていた部分において、沖縄と本土という壁を超えた一種の連帯性を感じました。
ほかにも、先の大戦後、食糧難で耐え難い状況下にあった沖縄県に、遠くハワイの沖縄系移民が募金で集めたお金で購入した豚550頭を送ったという、「海から豚がやってきた」話。寛大(中原丈雄)が語ることで、知れたことはよかったと思っています。
「ちむどんどん」を機に沖縄のことをもっと知ってみる
私たちは沖縄のことでまだまだ知らないことが多すぎます。基地と政治、暮らしと経済、文化とスポーツ……。もっというと、基地や貧困問題に共通する原因として語られる「本土優先ー沖縄劣後」という社会の差別構造も。優しく、あたたかく、癒やしてくれる美しい場所としての沖縄だけでなく、その印象に覆い隠されているものにも目を向けるべきだと思うのです。
朝ドラ以外にも沖縄を知るコンテンツはたくさんあります。たとえば2015年に放送されたNHK「ドキュメント72時間」の「沖縄 追憶のアメリカン・ドライブイン」回(NHKオンデマンドで観れます)。そこで1959年の「宮森小学校 米軍機墜落事故」について話した女性が、その事故を知らなかったNHKの取材者に対して、「もしご存知なければ、沖縄の歴史では消すことのできない、すごいことですので、ちょっと調べてみたほうがいいと思いますよ。知らないで取材はたぶん……」とおっしゃっていたのも印象的でした。
今年新聞3社が合同実施した世論調査で、沖縄の人たちに「本土の人たちが沖縄のことを理解しているか」とたずねたところ、「そう思わない」が80%に達していました。それが意味するところはなんなのか。沖縄復帰50年記念の今年、「ちむどんどん」をきっかけにして、私たちがもっと沖縄のことを知る、考える機会になればいいなと思っています。
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2022.09.27(火)
文=綿貫大介