伝統と素材への敬意を忘れずに自分らしい表現を
東京・日暮里の「パティシエ イナムラショウゾウ」(現在は統合営業)で経験を積んだ宇野澤さんが、フランスへ渡ったのは2012年のこと。パリのレストラン「ラーク」や「ラペルーズ」で、シェフ・パティシエの佐藤亮太郎さん(現・鎌倉「レガレヴ」オーナーシェフ)のもと腕を磨くなかで、アシェット・デセールのおもしろさに開眼していきました。
「アシェット・デセールは、構成の仕方も考え方も持ち帰りできるケーキとは違っていて、衝撃でした。ひと皿のなかで変化があって多彩ですし、それぞれのパーツを単体で食べても、全体を調和させてもおいしく楽しめる。温・冷の組み合わせやはかない食感など、瞬間のおいしさを表現できるのも魅力だと思います」と、宇野澤さん。
独立にあたって胸に抱いたのは、「フランスで長く受け継がれている伝統をリスペクトし、日本の旬の良さを取り入れて素材を引き立てたい」という思い。「基盤はクラシカルなところに置きながら、表現としてはモダンに仕上げたいと思っています。ひとつの素材でもフレッシュだけでなく、煮たり、セミドライにしたり、ソルベにしたり、いろんなアプローチを取り入れながらいろんな表情を出してあげたい。全体としては甘みが強すぎず軽やかで、余韻に幸福感が感じられるひと皿を意識しています」と、語ります。
生み出されるアシェット・デセールの魅力をさらに高めるのが、「お酒のお好きな方には、ぜひ味わってほしい」と宇野澤さんが語る、アルコールとのペアリングです。知り合いのソムリエに依頼し、宇野澤さんも試飲して、それぞれの皿にぴったりなお酒を1種類ずつ用意。
重なるカカオの風味と甘いポルト酒の組み合わせ
たとえば、「トゥーショコラ」という、カカオパルプ(カカオの果実)とビターチョコレートが主役のひと皿には、Quinta Vale D. Mariaの甘みがあって味わいがしっかりとしたポルト酒をマリアージュ。
カカオパルプのメレンゲの中に隠れているのは、100%カカオフルーツでつくられた、「エヴォカオ」というフルーティで酸味の強いチョコレートのガナッシュと、ビターチョコレートのソース、チョコレートのビスキュイ、カカオパルプのジュレです。その上をカカオパルプ入りの生クリームで覆い、ビターなチョコレートのソルベの上にビターチョコレートを削りかければ完成です。
皿の上に敷かれているのは、カカオニブ入りのほろ苦くてサクサクしたクランブル。すべてを一緒に味わうことで、カカオらしいビターで深みある風味とカカオパルプの酸味とさわやかさが混じり合い、繊細で芳しい香りが花開きます。そこにこのポルト酒を合わせれば、やわらかな口当たりといい、果実味といい、甘みといい、すべてがぴったり。ふくよかな調和と余韻にうっとりしてしまいます。
ちなみに、先述の「巨峰のデザート ホットワイン風」には、口当たりが軽くすっきりしていて、
「食事の後のちょっとした贅沢や自分へのご褒美として、ここに来てカウンターに腰かけ、ゆったりとアシェット・デセールを楽しんでいただけたらうれしいですね」と話す、宇野澤さん。美しく繊細に表現される季節の香りとともに、心豊かな時間が流れていきます。
relevé(ルルベ)
所在地 東京都港区東麻布2-31-5 眞部ビル1F
電話番号 03-5545-5520
営業時間 12:00~23:00(22:00 L.O.)
定休日 月曜日、火曜日
Instagram @releve_dessert
2022.09.28(水)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵