3度のシリーズを重ね、映画が大ヒットした『コード・ブルー』シリーズで演じた医師、白石恵役もそうだった。弱さを見せることが許されない救急ヘリコプター医療チームの中にあって、新垣結衣が演じる若き救急医・白石恵は弱さや迷いを振り捨てることができない、人間的な温情を象徴するキャラクターだ。
山下智久が演じるクールな天才医師•藍沢耕作の低く落ち着いた声と、迷いながら成長する新垣結衣演じる白石恵の細く弱い声は、物語の高音と低音のように響き合うハーモニーを奏でてきた。
若い頃の新垣結衣から感じた「困惑」
そうした、俳優として演じてきた人物像は、芸能人としての新垣結衣本人とも無縁のものではなかったと思う。元々彼女は、女優を目指して上京したわけではない。SPEEDブームで沖縄アクターズスクールを受験するも合格せず、姉が新垣結衣の写真を雑誌『ニコラ』のモデルに応募した所から芸能活動をスタートさせている。
![ガッキーが表紙を飾った『二コラ』(新潮社)2004年6月号](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/1280wm/img_12d587700598124686a342ca56865496104751.jpg)
ポッキーのCMが爆発的な人気を呼び、たちまちスターになるものの、若い頃の彼女にはどこか、常に周囲で動く芸能ビジネスに戸惑い、圧倒される困惑が顔に出ているようなところがあった。それはどこか『コード・ブルー』の最初のシーズンで、医師になる覚悟、救急の修羅場を踏む覚悟がないままここに来てしまった、と雨の中で吐露して涙を流す白石恵の戸惑いと重なった。
『逃げ恥』そして『獣になれない私たち』という、野木亜紀子脚本のドラマで大きな支持を得たことはやはり、新垣結衣にとって大きな自信、そして転機になったのだろう。
頂点まで高まった人気に逆行するように、2年近くの間出演作はスローダウンし、そして「古巣・レプロのマネジメント契約のもとにフリーランスとして独立する」という発表が、『逃げ恥』で共演した星野源との結婚と共に発表されたのは大きなニュースになった。
![東京ドラマアウォード2017で『逃げ恥』がドラマ部門グランプリに輝いた際の新垣と星野 ©時事通信社](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/f/5/1280wm/img_f57001e66a2fde00127b548474865373161338.jpg)
今おそらく、俳優としての新垣結衣は芸能界入りして初めてと言っていいほど安定した、自由な状態にある。次にどのような作品を選び、どのような人物を演じるか、彼女自身がこれまでにないほど大きな決定権を持つ立場にいるのではないだろうか。
2022.09.04(日)
文=CDB