店を育てるために消費者にできること
では消費者自身にできることはないのかというと、実はある。おいしい肉に当たったら、どの肉がおいしかったかを指名するのだ。「なんだ。そんなことか」と思うかもしれないが、これが意外と効果がある。
焼肉店やスーパーにおいて、正肉から内臓まで同じ個体を入れているということは流通の仕組み上、まずありえない。正肉についても、部位ごとに違う産地や生産者というのが当たり前のなか、店としては評判のいい肉を仕入れて、リピーターを増やしたい。客から評判のいい肉は店としてもリピートしたいのだ。
だから焼肉店では、どのメニューがおいしかったかを会計時などにきちんと伝える。スーパーの店頭ならパッケージに印刷されている個体識別番号をメモして、どの品がおいしかったかを精肉売り場の担当者に伝える。
できればスマホなどから「牛の個体識別情報検索サービス」にアクセスし、個体識別番号を入力。牛がどこでいつ生まれ、どんな履歴を経てその棚に並んだのかをチェックしておく。思い入れが深まるだけでなく、続けるうちに自分の好きな牛の傾向が把握できるようになる。
「店を育てる」のは、通ぶって上から目線で評価をしたり、アドバイスをしたりすることではない。ともに学び、何がおいしかったかをきちんと伝え合う、仲間探しのようなもの。日々の小さな声がけが、自分の通いたい店を育てることにつながるのだ。
「黒毛和牛」「和牛」「国産牛」は何が違う?
とはいえ、そもそも焼肉店のメニューやスーパー店頭にはさまざまな牛肉が並んでいるわけで、何を指標にどう選べばいいのか最初は悩ましい。
国産だけでも「黒毛和牛」「交雑牛」「国産牛」などの表記があり、ほかにもさまざまな銘柄の名前が並んでいてややこしいことこの上ない。
まず「和牛」は血統が「黒毛和種(黒毛和牛)」「褐毛和種(あか牛)」「日本短角種(短角牛)」「無角和種」の4種類と定められていて、その98%以上が黒毛和種。焼肉店やスーパーの店頭で「和牛」と書かれていたら、ほぼ黒毛だと思って間違いない。サシが入りやすく、やわらかく甘い味わいが特徴だ。
2022.07.26(火)
文=松浦 達也