「おそらく見たことがないような舞台になるでしょう。『高橋一生という俳優の魅力がふんだんに盛り込まれたお芝居』なんて生半可な表現では済まない(笑)。これは高橋一生からの“挑発”。あるいは演劇という行為、または劇場文化、もっと言うと今の社会への“挑戦状”でもあるかもしれないと思っています。彼とこれほど刺激的な舞台に挑めることに喜びしかありません」
演出家の白井晃さんはそう宣言した。高橋一生にとって初の一人芝居となる舞台『2020』で構成・演出を手がける。2人がタッグを組むのは5作目、6年ぶりだ。
「高橋くんは、常に自分と他者、自分と社会の反目を意識して、自分をどういう表現者たらしめようか自問自答してきた俳優。僕はそういう彼の姿勢に、深く共振しています」
今回の舞台は、疫病が世界を覆った2020年を起点として、人類の誕生から、やがて訪れるかもしれない世界の終わりまでを描く。クロマニヨン人、赤ちゃん工場の工場主、最高製品を売る男、最後の人間という登場人物すべてを高橋が演じる。脚本は、「ニムロッド」で芥川賞を受賞した上田岳弘氏が書き下ろした。
「高橋くんは上田文学の熱心な読者で、『白井さんと上田さんの表現したいものには共通点がある』と、僕たちを引き合わせてくれた張本人です。僕はすぐに上田さんが描く世界観に共鳴しました。その特徴は、時間や空間を超越したスケールの大きさ。ただ、どうやったら芝居で表現できるのかが大変な難題でした。すると高橋くんが『一人芝居でやってみたい』と言い出して。最初は突拍子もない提案に驚きましたが、上田さんも『シチュエーションやキャラクターが変わっているだけでメッセージは常に同じ』とおっしゃって、確かに一人芝居がいちばんしっくりくるスタイルかもしれないと」
当初3人が考えていたのは、長編小説『キュー』の舞台化。ところが、準備を進める中で訪れた“あの年”を無視することはできないと考え、2020年をテーマに据えた脚本を新たに用意することになった。
2022.07.07(木)
文=「週刊文春」編集部