世界の動線に多大な影響を及ぼしたコロナ禍。そのなかにあって各地の温泉宿はこの時間をどう過ごしてきたのか?

 全国の温泉を取材する石井宏子さんがひも解くこの2年の温泉宿の挑戦。そこから見えてきたのは、前向きに変化を続ける宿が放つ「これから」に向けたエネルギーでした。


2020年→22年世の中の変化とともに

 想像以上に長引くコロナ禍で、世の中の動きが制限され、温泉宿も休業を余儀なくされた時期がありました。その渦中、温泉宿はどう過ごしたのか―。

 この2年あまりの間に変革を行った宿が多いことを実感しています。人々の旅への期待や思い、どう過ごしたいかといったニーズも変化していくなか、その動きをとらえ、各宿が「自分の宿とは何か」を見つめなおし、「これからどうあるべきか」に向き合った結果といえそうです。

 気軽に友人を誘いづらい日々が続き、ひとり静かに旅にでかける「ひとり旅」はますます加速しています。旅へのニーズでコロナ禍初期に注目されたのは「個」の空間・時間でした。部屋に温泉がある、貸切風呂がある、部屋食や個室の食事処があることなどに人気が集まりました。

 2年目ともなると、安心安全は大前提となり、ソーシャルディスタンスを保てていれば、人の気配を感じながら楽しく食事がしたい、カウンター席で料理人と話がしたい、感染症対策がきちんとなされているなら、広々とした大浴場でのびのび温泉を堪能したいといった少し外向きの思考が増えてきたように思います。また、海外旅行へはまだ行きにくい状況が続き、国内旅行で日本の魅力に触れようと、ゆっくりと2泊以上の旅をする人も増えました。

 国内でも海外リゾートのような満足感を目指した、熱川温泉の伊豆ホテル リゾート&スパには、新しい食の楽しみが誕生しています。リゾート感あふれる中庭の『Coastline』では温泉足湯に入りながらハイブリッド寿司&ハワイアンフードを満喫でき、おひとり様でも利用できるカウンター割烹もできたので、料亭気分も味わえます。全室温泉付きのため1泊でも充実の滞在が可能です。

【伊豆ホテル リゾート&スパ】
【伊豆ホテル リゾート&スパ】

 ワーケーションへの注目が高まるなかWi-Fiを強化し、これまでのパブリックから一歩進んだ楽しみを求めた宿もあります。鳴子温泉の旅館大沼は広間を全面改装し、所有する山の杉や地元の栗の木、漆喰壁の自然循環型ラウンジに。ナチュラル空間で大画面映像や音楽を楽しめ、リモートワークができる連泊滞在プランなど、現代湯治から「住みたくなる湯宿」へと進化しました。

【旅館大沼】
【旅館大沼】

 法師温泉 長寿館は、囲炉裏のある玄関の雰囲気はそのままに、無垢のケヤキやナラ材で造ったカフェ&ショップがオープン。一枚板の贅沢なカウンターで湯上りコーヒーを味わいながら、「浴衣でワーケーション」が可能に。

【法師温泉 長寿館】
【法師温泉 長寿館】

2022.08.29(月)
文=石井宏子

CREA 2022年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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