毎日コツコツ筋トレするかのように投稿
ーーその情熱はいったいどこからきているのでしょう? 誰かに伝えたいという使命感にかられていたのですか?
子どもの頃から勧めたがり屋だったということもありますが、単純に楽しかったからです。そのとき何が美味しかったのか、どんな出会いがあったのか、どんなお店だったのか。覚えていられるつもりでも、書き留めておかないと忘れてしまいます。こんなに大好きなお店にたくさん行っているのに、お金も記憶も残らない。消えてなくなってしまうのは悔しいじゃないですか。
あとは自分の書いている文章が単純に好きなんです。自分がいちばんの自分のファンで、読んでいて楽しいからというのが大きい。何回も読んでリライトして、それを繰り返していくうちに、自分の文章の型のようなものができ上がっていくのが楽しかったというのはありますね。
ーー確かに。ハナコさんの文章を読んでいると、ノリノリで書いているのが伝わってきて、こちらまで楽しくなってきます。
仕事はもちろん、プライベートでもホームページからブログ、Instagramとツールは変わりながらも16年間書き続けてきました。特にInstagramになってからは、短い文章でいかに読んだ人の心を一瞬で掴むか、毎日コツコツ筋トレをしているような感じだったかも。
よく「ハナコさんは良い店にしか出会わないんですね」と言われますが、もちろんそんなことはなくて、単純に自分と合わなかったお店のことは書かないだけ。結果的に自分が楽しかったことや嬉しかったことしか書かないので、すべてがポジティブな内容になるのかもしれません。
ーー今ではInstagramはハナコさんにとってのビジネスツールのひとつになっていると思いますが、相変わらず楽しいですか?
楽しいからやっています。おっしゃる通り、Instagramを見て仕事の依頼をしてくださる人がほとんどですし、アップしたことによって実際に企画が通ったりすることもあるので、私にとってInstagramは営業ツールでもある。でも、それはあくまで結果であって、狙ってはいません。昔からアフィリエイト(※成果報酬型広告。商品やサービスをSNSにアップすることによって報酬を得ること)は絶対にやらないと決めています。あくまでも趣味ですから。
ーービジネスのにおいがしないところもハナコさんの魅力のひとつですよね。今回、そのInstagramをまとめて本にしようと思ったのはどうしてですか?
16年前にホームページを始めた当時は、まさかこんなSNS時代が来るなんて思いもしませんでした
Instagramなんて影も形もなかったし、iPhoneもありません。当時はミクシィで盛り上がっていて、この先もずっとミクシィをやり続けるとみんなが思っていたわけです。そのくらい勢いがあったのに、twitterが出てきてみんながそっちに流れた。
ミクシィで知り合った人とは未だに仲がよくて、一緒に飲みに行ったりはしています。でも、ミクシィそのものはすっかり私の人生からはなくなってしまったし、今でも頻繁に見ているという人は限られますよね。つまり、インターネット業界とはかくも儚いもので、今現在のメインのツールがInstagramでも、いつ何時自分の意志とは関係なく突然なくなってしまうかわからない。そう考えると、これが全部消えてしまうのがもったいなく思えてきて、アナログな媒体である書籍という形で残しておきたいと思ったんです。なにしろ1万投稿をゆうに超えていましたから。
ーー今回本にするにあたって、「君は納豆汁を知っているか」や「5日目の塩豚はエライ」に「はじめまして家キッシュ」など、Instagramにはなかったキャッチが秀逸ですよね。
ありがたいことに読者の方からもいろんな感想をいただくなかで、このキャッチがおもしろいと好評で、書体も可愛いと褒められます。書体はデザイナーさんのおかげですが、キャッチをつけたのは編集さんのアイデア。あまりにすごい量なので最初は驚きましたけど、絶対にあったほうがいいと思ったので気合を入れて書きました。すべて書き下ろしなので、単純に3年分として1,000本ノック状態。大変でしたけど、楽しかったですね。
実は最初、本にまとめたいという話をしたときは、原稿も写真も全部あるから余裕だなと軽い気持ちでいたんです。でも、大間違いでした。体裁を合わせて文字数を足したり増やしたり。結局かなりの量書き直したので、今までの本の中で一番時間を使いました。
2022.06.03(金)
文=和田紀子
写真=ツレヅレハナコ