「何度演じても飽きない」ほど重層的な作品

 玉三郎は、「いつの時代にも、ちょっとした出来心から始まった美談が、取り返しのつかないところまで膨らんでいく現象が起きる。この作品は、その普遍性が素晴らしい」と作品の魅力を語ります。それは、人間社会の愚かさと虚しさに鋭い視線をぶつけてきた有吉佐和子の真骨頂でもあります。

 特に、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻など、社会に不安要素が満ちているような時には、はからずもフェイクニュースやデマ、感情的な世論のうねりなどが起きがちです。

 「難しいテーマなのに、主張を押しつけたりせず、面白おかしく、その先にある悲しみや虚しさが沸き上がるという重層的な作品は、何度演じても飽きない」とか。同時に、現代社会を見つめ直す作品になるのではと、玉三郎自身も考えているようです。

 大いに笑って、最後は涙を誘う。そんな楽しい舞台なのに、作品を見終わった後には、きっと彼が舞台の上から強く訴えたかった大切な「真」が心の中に残されるでしょう。

 何よりこの覚えにくいタイトルの意味の深さは、幕が下りた後にいっそう鮮明になるはずです。

 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、2022年6月2日(木)から6月27日(月)まで、歌舞伎座で。

六月大歌舞伎

期間 2022年6月2日(木)~27日(月)
第一部 11:00~
第二部 14:15~
第三部 18:00~
※休演日 6月9日(木)、6月20日(月)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/761

文=真山 仁(まやま じん)

1962年生まれ。同志社大学法学部卒。新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。「オール讀物」に連載された、冨永検事シリーズ『墜落』の単行本が2022年6月に刊行予定。

2022.06.02(木)
文=真山 仁