「生」の英語に触れていくと、日本語との性質の違いも見えてくる。
「not=ない、の位置もそうですね。英語ではおよそ主語に続く述語の頭に付いて、まず肯定否定をはっきりとさせる。日本語ではつねに文の最後に付いて、相手の顔色を窺いながらやんわり伝えることができる。事実の客観性を重視する英語と、〈対人言語〉として相手との関係性を重視する日本語の違いです」
では、どのように勉強すれば英語が上達するのか。そう訊くと「本だけで英語と接するのを禁じること」だという。
「英語のgrammar(文法)という言葉は、rをlと読み間違えただけでglamour(魅力)という艶のある言葉になる。本来、言語とはそういう生きた世界にあるものなんです。音声には感情が込められ、意味は感情をベースにしています。だから、耳で聞いて、口を動かして、いっぱい使うことが大切です。ビートルズやビーチ・ボーイズを、浴びるように聞いたり歌ったりするのもいい。恥という感覚は日本人的な美徳かもしれませんが、恥ずかしがらずにSNS上で英語で発信するのもいいですね。本書が、その支えになってくれたら、なお嬉しいですね」
さとうよしあき/1950年生まれ。東京大学名誉教授、放送大学客員教授。専門はアメリカ文学、ポピュラー音楽。90年代、東京大学教養学部における英語教育改革を主導、全学共通のテキスト『The Universe of English』シリーズは学内外から反響を呼んだ。グレゴリー・ベイトソン、トマス・ピンチョン、ボブ・ディランなど訳書多数。
2022.05.30(月)
文=「週刊文春」編集部