歌手として2時間のステージをやり切るには体力が必要ですから、私も少し前まではコンサート前に1時間ぐらい軽いランニングをしていました。ですから、「体力は大丈夫!!」という自負はありました(笑)。本番を入れて何度もリハーサルがあり、その度にスタート地点まで戻っていますから、歩数計をつけていたらすごい数字になっていたと思います。

――「走れる70代」という体力面だけでなく、森山さんのお父さまはジャズトランペッターで日系2世の森山久さんで、“サッチモ”ことルイ・アームストロングとも親交があったお方です。

『カムカム』という作品にこれほどリンクする俳優は他にいないほど、奇跡のキャスティングでした。

 

森山家の『ファミリーヒストリー』とキャスティングの秘密

森山 数年前、私の家族の歴史をNHKの『ファミリーヒストリー』で紹介していただいたので、「番組をご覧になってお声がけしてくださったのですか?」と聞いたら、「いえ、知りませんでした。なんとなくピンときて」だと(笑)。私のバックグラウンドを念頭に置いて、ということではまったくなかったようで、まさにご縁ですよね。

 ジャズミュージシャンの家庭で育ったこともあり、「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」も当然のように家で聴いていました。父もひなたの道を明るく進んでいくような、ほがらかな性格の人だったんです。怒られたことは一度もなくて、いつも「I love you」と言ってくれました。

――「英語」を縦糸に3世代の物語を紡いだ『カムカムエヴリバディ』に対し、森山家はジャズトランペッターの父・久さん、シンガーだった母・陽子さん、息子で歌手の森山直太朗さん、そしていとこのムッシュかまやつさんと、「音楽」でもファミリーがつながっています。

森山 「英語」と「音楽」に通じる家族の話で言いますと、優しい父でしたが、発音にだけは厳しかったですね。英語の歌をちょっと鼻歌で8小節も歌ったら、「良子ちゃん、ちょっといらっしゃい」と、RとL、ZとSの違い、発音の全てを2、3時間、特訓させられました。やっと終わっても、次の8小節を歌うとそれが繰り返されました。

2022.05.16(月)
文=小泉なつみ