――「アニー・ヒラカワ=安子・ローズウッド」という事実が終盤最大のミステリーになるわけですが、役作りはどのようにされたのでしょうか。

 

『カムカム』の“るい編”以降をあえて観なかった理由

森山 出演の少し前に登場シーンの台本が送られてくるような状況でしたので、自分の存在がここまで大きな鍵になる展開も、当初詳しくはまったく知りませんでした。

 だからあのドラマのためにできることは、とにかく安子ちゃんが若いときにどんな思いでアメリカに渡ったのか、そこまでをじっくり観ることだけでした。

 実はるいちゃんのパートになってから1、2回観たのですが、安子はその頃アメリカにいますから、るいちゃんの様子を知る由もありませんよね。そう思ったら、アニーを演じる自分にとって今のるいちゃんの情報は要らないのではないかと感じ、それからは出番まで『カムカム』をあえて一切観ませんでした。

――安子と同じ環境に身を置くようにして役作りをされたのですね。では50年の時を経てるいと再会するシーン、感慨もひとしおだったのでは。

森山 本当に、こみあげて困りました。家でも「エモーショナル良子」と呼ばれているくらいですから、台本を覚えている段階からおいおいと泣けてきて、本番ではもう涙が涸れてしまうのではないかと心配なほどでした。

 思い出深いシーンといえば、るいちゃんとの再会直前の猛ダッシュシーンです。監督さんに「猛ダッシュしてください」と言われたんですが、「普通、私の年代、74歳になると、猛ダッシュはいたしません」と答えました(笑)。

アニーは走りながら、過去に戻っていたのかも

――旧岡山偕行社から表町商店街、岡山城、そして朝丘神社へと、孫のひなたから逃げるように岡山市内を走り抜けていました。

森山 アニーは逃げている、あるいは走りながら過去に戻っていたのかもわかりませんね。会いたいけど会えない……あの走りの中にはいろんな気持ちが込められているのだろうと思います。

2022.05.16(月)
文=小泉なつみ