飯塚からは『GTO』撮影時、「少なくとも3年は頑張れ。3年後にはオーディションで選ばれるのではなくキャスティングされるようになるし、感覚や心も成長して確実に状況は変わる。焦ることはない」という意味のことを言われたという。それは見事に的中し、3年後の2017年、映画『獣道』で須賀健太とダブル主演を務め、NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』にも出演して全国的にその存在を知られるようになる。
『ひよっこ』は、ヒロインの親友役でオーディションを受けたが、こちらは結果的に佐久間由衣(伊藤とは前々年にドラマ『トランジットガールズ』でダブル主演していた)に決まる。しかし、オーディションの際、別のドラマの不良役のため髪をオレンジに染めた伊藤がお嬢様言葉を話すのを、脚本家の岡田惠和が面白がり、彼女のために役をつくってくれた。それが米子という米屋の娘だった。米嫌いで朝食はいつもパンで、親のつけた名前を嫌って自分で考えた「さおり」を自称するなど、ちょっと変わったキャラクターはいまなお記憶に残る。
米子にしてもそうだが、伊藤には何かに抗ったり闘ったりする役がハマる。昨年井上芳雄とダブル主演した舞台『首切り王子と愚かな女』でも、民衆が圧政に苦しむ架空の国で、相手役の王子をはじめ、さまざまな人物と闘わざるを得ない状況に置かれたヒロインを熱演した。そのクライマックスでは恐怖政治に耐えかねた民衆が反乱を起こすなか、王子を城から逃すべく奔走するのだが、演技力に加え、体の小さな彼女が必死になって舞台を走り回る姿には心動かされるものがあった。
兄・オズワルド伊藤が贈った言葉
昨年には初の著書『【さり】ではなく【さいり】です。』を刊行した。同書には、兄でお笑いコンビ・オズワルドの伊藤俊介が、しばらく兄妹で暮らしていた家から引っ越すにあたり彼女に送ったLINEのメッセージも収録されている。そこには《一番身近に本当のプロがいて幸せです。刺激になりますずっと。信じられないと思うけど ずっと悔しかった。これはもうやっぱりずっとそうだから、必ず俺も売れるよ。お互い天職。死ぬまでやってやろう》と、同じ芸能の世界に飛び込んだ者としての率直な思いが感謝と励ましの言葉とともにつづられていた(※3)。
2022.05.17(火)
文=近藤正高