この初代部下の石原と矢部謙三のコンビは、主人公の山田×上田コンビと併せて、『トリック』第1・2シーズンの四輪駆動ともいうべき大きな魅力であった。
こうして『トリック』の魅力的なキャラクターは撮影現場で堤がセリフやアドリブを追加し、俳優たちが柔軟に演技で応えて作られていったのだ。
オールロケの過酷な撮影…「当時は2、3時間しか眠れなかった」阿部寛
そのほかにもまだまだ『トリック』の魅力は尽きない。地方の因習を匂わせる数々の村や離島といった横溝正史へのオマージュのほか、ペイズリーや観光ペナントなど微妙に昭和な小道具が画面に散りばめられた画作り、記憶の片隅からテレビ画面(当時はほとんどの家がブラウン管)に引きずりだされる、忘れかけていた芸人やタレントたち。ドラマ全体にはそこはかとなく気恥ずかしさが漂っていた。
また、ドラマ全編をオールロケで撮影しているのも『トリック』の特徴だ。
ロケ撮影はかなり過酷だったらしく、2000年7月7日に初回放送分の撮影のクランクインはなんと6月21日。「母之泉」の第1話を撮り終えると、そこで現場を止めて東京へ戻り編集の仕上げをして、また現場に戻って続きを撮影したという。
キャストや撮影スタッフたちも撮影当時は睡眠時間も少なく、改めて今「母之泉」のエピソードを見返すと夜のシーンでは仲間由紀恵が鼻声でかなり眠そうなのが窺える(母之泉のロケ地は宿泊施設だったので、スタッフ皆で寝泊して合宿のような雰囲気だったという)。
視聴率は7.9%から24.7%へ…広がる「トリック」の波紋
『トリック』の平均視聴率は第1シーズンでは7.9%だった。堤幸彦は「さもありなん」という感じで「まあ悪くはないな」程度の受け止め方であったが、逆にテレビ朝日のプロデューサー桑田潔はその数字に愕然とし、この面白さを視聴者にちゃんと伝えることができなかったのは自身の責任だったと反省するなど、当時は受け止め方も様々だった。
2022.05.12(木)
文=すずき たけし