ジャケットを着て格好良く車を走らせたり男っぽいふるまいをしていても、どこか色っぽさを感じさせるのは、監督の幾原邦彦さんや脚本の榎戸洋司さんが官能的なニュアンスを入れてくださったから。『S』の世界全体に色気や毒気がいい感じで漂っていて、はるかの隣には、艶っぽく凛と微笑んでいる勝生さんのみちるがいる。幸せでした。

 初アフレコのとき、「はるかとみちるは、夫婦のつもりで演じてください」とディレクションを受けました。「ええと……いわゆるビアンではなく、夫婦ですか?」「そう、夫婦です」「女性同士で?」「はい」。

 どういうことなんだろう、と考えつつの発進。女性同士でもあり方は夫婦のようで、はるかは旦那側。はるかを演じる時は、旦那としてみちるをリードしなきゃと一生懸命でした。

 でもあとで考えると、掌の上で転がされてるのは完全にはるかのほう。それは勝生さん演じるみちるのおかげで、私はみちるに乗せられて、格好良くいさせていただいているんだと気づいた。すべては引き立ててくださる女性のおかげ。男性心理と居方を、沁みて学んだ時期でした……(笑)。

 はるかとみちるの掛け合いで流れる独特の空気感は、勝生さんがいたからこそ生まれました。とても繊細な空気を作り、キャッチボールできる稀有な声優のお一人。私は、自分が思った表現をそのまま出すことしかできなかったのに、勝生さんがそれをうまく掬い取り、絶妙に返してくださる。

 どの役でもそうですが、こうした空気感まできちんと含んだやりとりができることは、声優をしていても滅多にありません。もし、みちるが勝生さんでなければ全く違ったものになっていた。

 

勝生さんが演じるみちるのことが…

 彼女がみちるとしてかけてくれる想いに、愛に、胸を打たれる日々。

 私は勝生さんが演じるみちるを、本当に好きになってしまっていました。

 凜としていて美しくて、優しくて強い。それでいて時折見せる儚さ、脆さ。はるかの前では一歩引いているけど、全力で支えてくれる。そんな人この世に他にいると思いますか、いや、いない(笑)。そんな風にヤバイ奴だったので、普段の勝生さんをみちると思わないように努力するので当時は精一杯でした。

2022.04.11(月)
文=緒方 恵美