日本を代表するセレクトショップのひとつとして、長年にわたり人気を集めてきたナノ・ユニバース。2024年に25周年を迎えるにあたり、この春からリブランディングをスタートした。
果たして、どのような姿に変貌を遂げるのか? 2021年5月にナノ・ユニバースのクリエイティブディレクターに就任した中田浩史さんに話を聞いた。
ナノ・ユニバースが事業をスタートしたのは1999年。2024年に迎える25周年を前に、ここはあくまでも通過点だと話すのは、同ブランドのクリエイティブディレクターを務める中田浩史さんだ。50周年に向けた大きな見直しをする好機だととらえ、リブランディングに着手した。
実はナノ・ユニバースは、2021年3月にアングローバルなどとともにTSIに統合されている。その結果、アパレル事業に加えてゴルフ事業やスケートボード事業なども含む、およそ60の商標をもつ企業の中のひとつになった。
「下地社長からは、同じTSIのさまざまな商標やブランドを上手に活用することで、ナノ・ユニバースを会社全体を包括するTSIユニバースのような存在にしてほしいと言われました」そう話す中田さん。その言葉を踏まえながら、中田さんはリブランディングについて熟慮を重ねていった。
リブランディングのヒントを得るため、約70名のスタッフと個別に面談
「かっこよくするとか、美しくするとか、儲かればいいというような、目先の良し悪しでリブランディングをしてはいけないと思いました。サステナブルな時代にアパレル事業はどうあるべきか。そういう大きなテーマで考えていく必要があり、そのためには現在のナノ・ユニバースの立ち位置を正確に把握し、自分以外の第三者的な視点から分析をしなければならないと感じたんです」
そのために、まず中田さんが行ったことは、社内のスタッフとの対話だった。密を避けながら3週間、およそ70名と面談を行った。
「やってよかったですね。自分はナノ・ユニバース1年生。それまでここで働いてきた社員のみなさんを尊敬、尊重し、今のブランドを肯定した上で、最近感じていることだけでなく、どう変えていくのかという知恵やアイデアを聞けたことはリブランディングの大きな参考になりました。
ヒアリングの結果、社員は総じて大きな問題意識を持っていて、なんらかの変化が必要だと感じているということがわかりました。面談前は、ナノ・ユニバースには創業当時から築き上げてきた歴史や文化があるので、あの頃に戻りたいという気持ちがあれば、そこにピントを合わせる方向もあるのかなと思っていましたが、実際に話を聞くと、9割以上の人が新しい答えを探していきたいと言ったんです。これには驚きました」
コロナ禍であることや、ブランドが20年を超えて、ひとつの節目だと感じていたこともあったのだろうと中田さんは話す。「面談した時期は、TSIへの統合に対して前向きな人もいれば、以前のままが良かったと感じている人もいるようなタイミングだったと思います。不安な気持ちにも寄り添いながら事を進めていくことが大事だと思いましたので、直接会って話が聞けてよかったです」
ブランドビジネスへの展開に活路を見出す
今の時代、セレクトショップがこれまで通りのセレクトショップであることの難しさも感じていた中田さん。ショップのオリジナルアイテムが”セレオリ”と略されて軽んじられる風潮の中、突破口を見つける必要があった。考えた末に出した結論は、より力強くブランドビジネスを展開することだった。
そして「生活に役立つファッションや情報を知恵として提案することを活動とする」をスローガンに掲げた。これは米国で1968年に創刊され、工学者、発明家、思想家バックミンスター・フラーの”宇宙船地球号”の概念などを提唱した「ホール・アース・カタログ」からインスピレーションを得たものだ。
「セレクトショップのオリジナルアイテムが、セレクトされた国内外のブランドよりも下に見られる状況は間違っていると思いましたし、コンセプトを強く打ち出してブランド化することで状況を変えていけるのではないかと考えました」
そこで、リブランディングにあたりLB.01からLB.06までの6つのレーベルを新たに作り、商品の特性に合わせてそのいずれかに振り分けたり、レーベルのために新たな商品を生み出していくことにした。従来のセレクトショップではなく、6つのレーベルをもつマルチレーベルストア化を果たしたのだ。
2022.04.09(土)
文=石川博也
撮影=杉山秀樹