不倫をしたことで、私にとっての評価は今や下がってしまった俳優さんがいるけれど、その方も、そんな「才能がある」1人だった。世界的にも有名で、誰もが認める名俳優だった。
その方が寂庵に来ると、私たちスタッフは大喜びで、それを見て先生も喜んでいた。全く偉そうにしないし、ワインも先生のグラスが空になる前にこまめに注いでくれるような気の配れる方。私たちにも優しいし、よく笑い、テレビで見ていた通りに素敵な男性だった。先生も「あなたが来るとね、うちのスタッフがみんな、ソワソワしはじめるのよ」と話していた。
先生は99歳にもなり、もう上に立つ人はいないような存在になっていた。もっと気難しかったり、偉そうにしたりしてもおかしくないはずなのに、全くそんなことがなかった。普段の生活でも、私たちにいつも「ありがとう」と言っていた。私でもここまで言わないというほど、先生はこまめに、当たり前のようにそう言うのだ。
私たちはスタッフで雇われの身なのに、先生はいつも公平に優しくしてくれた。外でも、偉い人や有名な人であっても、自分より年下でも一般の人であっても関係なく、先生は誰にでも公平だった。ホテルやレストランでも偉そうにしないし、フレンドリーだった。
先生だけではなく、私がお会いした「素敵だな」と思う作家などの有名人もそうだった。偉い人は偉そうにしなくても偉い。中途半端な人ほど、自分の権力を見せつけたがったり虚勢を張ったりするんだな、とつくづく感じた。
それは私が先生のそばにいたからわかったことだ。誰に対しても丁寧で公平で優しい人は、そうした人柄にふさわしい魅力や実力を備えた人だった。
先生の周りの「普通」ではない人たち
感性が面白い作家の方もたくさんいた。作家はやはりどこか飛びぬけている気がする。考え方も自由で、どこか変わっている。「普通」ではない人たちが多かった。
先生の周りには個性的で変わっている人が多く、常識から外れているような自由な考え方や教養の深さに毎回、圧倒された。私の祖母のような年齢の作家の方でも、若々しく美しく、また自由で年齢を感じさせなかった。
2022.03.19(土)
文=瀬尾まなほ