強いメッセージを持った作品を次々に発表し、現代アート界で異彩を放つアーティスト・コレクティブのChim↑Pom。そのメンバーのエリイさんは、既成のイメージに縛られることをしっかり拒み、常に本質をついた言動を発信してくれています。
独創的なアイデアと卓越した行動力で社会に介入する、その生き方自体がもはやアートである彼女。発売された著書や開催中の展示を通して見えてくる、エリイさんの社会に対するまなざしとは。たっぷりお話をうかがいました。
幼少期からの読書体験で得た文学的センス
――著書『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』は、エリイさんの深い思考や感性に触れられる内容もさることながら、オリジナリティのある文体に惹きつけられました。文章の随所に、文学を芸術たらしめている純文学のエッセンスを感じます。それはエリイさんが長年文学を享受してきた成果だと思うのですが、文学にのめり込んだきっかけはあるのでしょうか。
小学生の頃、夏休み前は本を8冊くらいしか借りられないんですが、初日に全部読んでしまって。読むものがなくてつらくなり、学校以外の図書館にも行っていました。
――当時はどういう作品を読んでいましたか?
今どんなに探しても見つからないんですけど、ずっと覚えているのがヨーロッパの王様の本。『カスピアン王子の角笛』のような内容だったと思いますが、発見できなくて。
――近代文学などにも精通しているイメージはあったのですが、著書の中で妊娠中に『徒然草』を読んでいたことに触れられていて、その読書ジャンルの広さに驚きました。作品選びの基準はありますか?
誰かがおもしろいと言ったらすぐチャレンジしています。『徒然草』はたしか、YouTubeで読んでいるおばあさんがいたんですよね。それで興味を持ちました。
たとえば『徒然草』には、あるひょうきんな法師が宴会で、近くにあった足鼎(脚が三本ついている金属製の容器)を被って踊っていたら、それが抜けなくなって、最終的に抜けたときにはずるぶけになって長いこと患ったという話があるんですけど、700年前にそんなエピソードが? と思うと、おかしな気持ちになりますよね。
――ほかに最近お気に入りの作品はありますか?
最近気になったのは、村田沙耶香さん。私もこの前書かせてもらったんだけど、「文學界」のリレーエッセイ「私の身体を生きる」の村田さんの回の内容がずば抜けてよかったですね。
――著書は聖書の内容を織り交ぜて構成されていますよね。数ある本のなかでもやはり一番読み返す、文字通りバイブルとなる本は聖書ということになるのでしょうか。
聖書は落ちていたらパラパラ読むという感じなんですけど、なぜかなんとなくあるんですよね。手元には常にあると思います。読んでいて改めてこんな記述あったんだと気づくこともありますし、その発見はおもしろいですよね。でも、読もうとして読んでいる感覚ではないんです。
――なるほど。ただ「聖書は私の味方」ということも本に書かれていましたね。
身近な存在であるので、勝手知ったるところってすごい味方になっているんじゃないですかね。
2022.03.18(金)
文=綿貫大介
写真=平松市聖