辛さのバリエーションを表現するのにオノマトペも有効だ。ビリビリと舌が麻痺しそう、舌にピリッと刺激が伝わる、後味がヒリヒリするほど辛い、口の中がピリピリ(ピリリ)と辛い、 スパイスで舌がジンジンする、のどの奥から食道までカッカしてくる辛さ、など。

 

甘さで表現するカレーのおいしさ 

 意外かもしれないが、カレーの味わいを表すには甘さもしばしば顔を出す。 

〈ただからくて黄色ければカレーだと思つてゐるのがいけないのです。本當のカレーはそんなにからいものではない、食べる時にすうつと甘くて、後から少しづつ辛味が舌に湧いて來るのがいゝのです。 

 (子母澤寛「眞の味は骨に〈印度志士 ボース氏の話〉」) 〉

 明治生まれの子母澤寛は、本当のカレーはただ辛いだけではないと断言する。はじめは甘味をまず感じるものだと。味の好みは人それぞれだが、辛さだけを追求したカレーにおいしさを感じることはむずかしいのではないだろうか。 

 甘味のほかに酸味が現れるカレーもある。インドカレーの1種であるバターチキンカレーは生クリームとヨーグルトを使用するのでスパイシーであると同時にコク・甘味・酸味が同居する(『世界のカレー図鑑』)。ほかにもタマリンドの果実が効いた「辛さと酸っぱさが際立つスープ状の」ラッサム(カレー)や「ヨーグルトとトマトの酸味がスパイスと絡みあい、刺激的だがさっぱりとした風味」(同)のカレーのように酸味が顔を出すものがある。カレーに酸味を感じる場合、酸味の正体も表すと、味を想像しやすい。 

引用文献 
・浅野哲哉、1993年、「衝撃のカリー体験」『われらカレー党宣言』、世界文化社
・池波正太郎、2013年、「カレーライス」『アンソロジー カレーライス!!』( 杉田淳子・武藤正人・編)、 PARCO出版
・乾ルカ、2018年、『カレーなる逆襲 』、文春文庫
・黒沢薫、2005年、『ぽんカレー』、角川書店
・子母澤寛、1993年、「眞の味は骨に〈印度志士 ボース氏の話〉」『われらカレー党宣言』、世界文化社
・竹内真、2001年、『カレーライフ』、集英社 
・ハウス食品株式会社・監修、2019年、『世界のカレー図鑑』、マイナビ出版
・吉行淳之介、2013年、「ライスカレー」『アンソロジー カレーライス 』( 杉田淳子・武藤正人・編)、 PARCO出版
・山本一力、2018年、「 洋食屋さんのキングだ」『アンソロジー カレーライス 大盛り!!』(杉田淳子・編)、ちくま文庫

・「dancyu」、2019年9月号、プレジデント社
・「ブルータス」、2020年7月1日号、マガジンハウス

【後編を読む】「ラーメンの味を、貴婦人・壊れたブレーキ・カオス・変態に…」絶品ラーメンを食べたときに使いたい“おいしさの表現術”とは

「ラーメンの味を、貴婦人・壊れたブレーキ・カオス・変態に…」絶品ラーメンを食べたときに使いたい“おいしさの表現術”とは へ続く

2022.03.05(土)
文=味ことば研究ラボラトリー