色を直接表現するだけではなく、「チョコレート色をしたカレー」「黄金のルー」のように、 ルーの色を何かに喩えると表現も広がる。 

 では、ルーの粘度は? オノマトペの出番だ。家庭では市販のカレールーが使用されることが多いのでとろみがつく。作るカレーの粘度の好みによって、ドロッとした、どろりと、とろ っと、とろとろの、もったりした、と表す。 

 スパイスカレーは、シャバシャバ系の割合が高い(ただし、挽き肉[キーマ]を使用するキーマカレーは日本では汁けのないものが多い)。しゃばしゃば、パシャパシャ、シャブシャブの、さらさらの、さらさらと流れるような、さらっとした。東京の「新宿中村屋」と並ぶ老舗のインドカレー店「アジャンタ」(東京・麴町)のチキンカレーは「少し緑がかった黄色とも茶色ともつかないサラサラの汁」(浅野哲哉「衝撃のカリー体験」)と表現される。    

 カレーの見た目で食欲を刺激されたら、次は肝心の味に向かう。 

 

 カレーを“視”食したあとは実食。カレーをひと口食べ、ルーとライス(あるいはナン)をじっ くり味わうと様々な味が現れる。どうやってカレーの味を表すか。まずは、ストレートに甘い、 辛いなどの表現から。 

カレーの味の中心 

 辛味・甘味・酸味を基本におこう。カレーといえばまず辛さ。カレーの要である香辛料の辛味成分には食欲増進作用もあり、カレーのおいしさになくてはならない。しかし、辛味は味覚に関わる基本五味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)には含まれない。正確には辛味は痛覚で感じるものだが、口で感じる感覚なので味に入れよう。 

 吉行淳之介は父が作るカレーの思い出をこう語る(下線は著者)。 

〈 私の父親は、料理自慢で、しばしば台所に入ってフライパンを握ったり鍋をかきまわしたりしていた。彼に言わせると、「ライスカレーは猛烈に辛くなくてはいけない」というわけで、ときおりつくってくれたものは、舌が痺れるくらい辛かった。ハアハア息をはきながら、水を飲み飲み食べたのも、懐しい思い出の一つである。 

 (吉行淳之介「ライスカレー」)〉

 マイルドな辛さ、心地よい辛さもあれば、後をひく辛さ、辛さが熾烈(しれつ)である、舌が焼けるような辛さ、つきぬけるような鮮烈な辛さ、さらには「やったら辛くて味なんかわかりゃしない」「あの辛さたるやまともじゃなかった」(浅野哲哉「衝撃のカリー体験」)ほどの辛さまで様々である。辛い、ピリ辛、スパイシーはシズルワードでもある。カレーのおいしさを伝える大切なキーワード。 

2022.03.05(土)
文=味ことば研究ラボラトリー