世界一長い、キプロスの人とネコとの絆
それもそのはず、キプロスの人とネコの絆の歴史は世界一、長いのである。ここは、9500年前の「世界最古の飼いネコの墓」が発見された島でもあるのだ。2004年、一緒に埋葬された30歳前後の男性とネコの骨が発掘されたのである。ネコはもともとキプロスにはいなかったから、海を渡って連れて来たのだろう。
ところが、そんなネコにとって天国のようなこの島にも、コロナ禍の暗い影が忍び寄っている。観光資源が豊かなキプロスだが、次々と飲食店やホテルが休業。経済状況も悪化して、住民もエサをあげる余裕がなくなり、保護に熱心だった別荘族の外国人も帰国。その結果、お腹をすかせたネコが増えているという。キプロスのネコたち、大ピンチである。
おおらかな“マイキャット文化”も、災害や経済状況に猫たちの命が左右されないように、住民も考えなければならない時期に来ているようだ。それでも長年、人間と共生してきたキプロスからネコがいなくなることは決してないだろう。
なぜならば、キプロスにはこんなネコ最強伝説がある。4世紀頃、この島が大旱魃に襲われたことがある。しかし、井戸の中や水のある洞窟には毒蛇が巣くい、苦しむ人々を見かねたビザンチン皇帝コンスタンティンの母であるセント・ヘレナは、中東から大量のネコをキプロス島に運んだ。そして猫たちは期待に応え、見事、島の毒蛇を一掃したという。
「今でも蛇やヤモリに食らいつくネコはいっぱいいます。庭に現れた毒蛇に飛びかかった子ネコが、まだへたくそで反対に噛まれて死んでしまった……なんていう話も、時々聞きますよ」とは現地のガイドさん。闘牛ならぬ闘猫! キプロスのネコには戦士の血が脈々と流れているのだ。
コタツで丸くなる癒やされネコとは一味違う、毒蛇にも果敢に向かっていくキプロスの島ネコ。コロナの終息を願っているのは人間だけではない。キプロス人にとってかけがえのないマイキャットたちも禍を力強く乗り越えてくれることを祈りたい。
白石あづさ
ライター&フォトグラファー。3年に渡る世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。Twitter @Azusa_Shiraishi
2022.02.25(金)
文・写真=白石あづさ