会も終わりに近づき、ご退出されかけた陛下は、もう一度私のところへ戻られ、「所長、研究所は大変だそうですね」とおっしゃられた。私は、陛下の優しさにただただ恐縮して、「大変ですが頑張っています」と繰り返したのである。
その数年後、園遊会にお招きを受ける機会があった。私が隅の方でかしこまっていると、陛下は近づいてこられ、「所長、研究所は最近どうですか?」とお声かけいただいた。私が直立不動で条件反射のように「大変でございますが頑張っております」とお答えしたのは言うまでもない。
(「文藝春秋」2019年5月号より)
2021.11.28(日)
文=山岸 哲