ピルで生理の不快はコントロールできる
こうした生理にまつわる諸問題、明確な原因がない場合は、ストレスなどによるホルモンバランスの乱れが背景にある。日本では生理は「健康のバロメーター」と捉えられ、生活習慣で自然に整えるべきという考えが欧米と比べ根強い。
「このため、症状が辛い生理をピルの使用で軽くしたり、ずらすことに抵抗を感じる女性も、日本ではまだまだ多いんです」
ピルとは卵胞ホルモン(エストロゲン)と、子宮内膜を維持する黄体ホルモン(プロゲスチン)の両方が入った薬をいう。服用すると脳が“妊娠した”と思い込み、ホルモン分泌をやめることで排卵を抑制し、子宮内膜を厚くしないよう作用する。
高い避妊効果をはじめ、生理痛や経血量を軽減するほか、生理周期を整えることができ、フランスでは約33%の女性がピルを利用しているという国連の調査もある。また、PMS(月経前症候群)を和らげる効果もある。
「PMSは生理前のイライラや体が重だるいといった心身の不調で、30~40代で悩んでいる女性はとても多いです。ピルを服用すればホルモンバランスが一定に保たれ、PMSの症状も抑えることができます。生理は自然なままにしておきたいという考えも尊重しますが、一方で生理に関連する諸症状はピルで自らコントロールできることも、もっと知ってほしいですね」
そう話す高橋先生も、最近はスマホのアプリで月経管理をする女性が増え、「診察していても、スマホ片手に過去に遡って生理日を正確に伝えられる方がとても多くなりました」と感心する。
今、生理周りのアイテムが続々誕生し、女性の体のための技術“フェムテック”として注目されている。オンライン診療でピルを処方してくれる産婦人科も登場。子宮内に装着して黄体ホルモンを放出する「ミレーナ※」も、避妊や月経困難症の緩和に有効と話題だ。今こそ、正しい理解で生理の悩みと向き合い、日常をより快適なものにしていくチャンスだろう。
※ミレーナ(子宮内システム)は、子宮内に装着することで黄体ホルモン(プロゲスチン)が子宮に放出され、ピルと同等かそれ以上の避妊効果が得られるT字型の器具です。生理痛や過多月経の軽減効果もあり、一度装着すると最長で5年にわたり効果が続きます。装着時に痛みを伴うため出産経験者に推奨されますが、出産経験がなくても装着することができます。ミレーナは医師が装着、除去を行う。まず婦人科で相談してみよう。
●いま知るべき、子宮の大事な情報
小さな傷で済む子宮の手術が続々登場。でも早期発見がマスト!
子宮頸がんや、子宮の内膜にできる「子宮体がん」の治療は、子宮を摘出する手術が基本。従来の開腹手術ではお腹に大きな傷が残っていたが、最近は小さな傷が数か所だけで済む腹腔鏡下手術やロボット支援手術が可能になった。ただし、こうした体への負担が少ない手術が受けられるのは早期のがんのみ。やはり検診が重要!
20~30代の子宮頸がんが激増。まったくひとごとではない!
「子宮頸がん」は、子宮の入り口にある子宮頸部にできるがん。性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で、治療は頸部を大きく切除したり、子宮を摘出しなくてはならない。初交の低年齢化により近年は20~30代の患者が激増し、妊娠前に子宮の摘出を余儀なくされることも。2年に1度は必ず定期検診を。
●お話を聞いたのは……
産婦人科医 高橋幸子(たかはし・さちこ)先生
山形大学医学部卒業後、埼玉医科大学総合医療センター研修医を経て、現在は埼玉医科大学病院産婦人科助教。診療の傍ら、「性教育」の専門家として、小学校~大学でも精力的に講演活動を実施。書籍、TV、webメディアなど各方面で情報発信を行っている。
https://sakko0607.wixsite.com/sakko
Column
私たちの体を守りケアする
フェム・ヘルス研究室
女性の心身の仕組みを理解して、快適に暮らすめための連載。「フェムテック」アイテムの紹介をはじめ、PMS、月経、更年期などの女性のしんどさを和らげて、生活の質を上げる方法を考えます。
2021.10.16(土)
Text=Tomoko Uchida
Illustrations=Ayumi Takahashi