Night Tempoがリエディットの対象として選曲したのは「Alfa Flight」「ガラスの草原」「Good Friend」「Night Cruising」の4曲。やはり『ADVENTURE』収録の「Good Friend」「Night Cruising」など、当時のヒットシングルというよりも、むしろ“埋もれた名曲”を発掘している。

「僕としては、当時の最先端のサウンドだったんじゃないかなって思います。歌詞もすごく未来的で、不思議な音楽で。すごくトリップ感がある。『Mystical Composer』も、歌詞は何を言ってるかまったくわからないんです。でも、そういうわけのわからない、不思議なものが格好いいんですよね。それが今、再評価されて、海外でオシャレなものとして受け入れられているんだと思います」

 

注目を集めるべき音楽性

 また、Night Tempoが力説するのが、1988年に菊池桃子を中心に結成されたバンド、ラ・ムーの魅力だ。デビュー曲「愛は心の仕事です」や「少年は天使を殺す」など4枚のシングルとアルバム『Thanks Giving』をリリースするも、ソロ時代を上回るヒットには恵まれず活動期間はわずか1年ほどで解散してしまう。が、黒人女性コーラスを従えソウルやファンクを意欲的に取り入れた音楽性は、シティポップ・リバイバルが進む今、むしろ注目を集めるべきものだという。

「僕はもともとラ・ムーを先に知って、そこから菊池桃子さんのことを掘り進めていったんです。ラ・ムーの『Thanks Giving』というアルバムは自分的には完璧なアルバムだと思っていて、昔からいろんな人にもオススメしてきました。音楽だけじゃなく、アルバムのジャケットとかビジュアル面もめちゃめちゃ格好いい。ライブ映像を観ても、黒人女性の横で菊池桃子さんがディスコダンスを踊りながら『愛は心の仕事です』を歌っていたり、本当にすごいんです。でも、僕がそういうことを言うと、当時のリアルタイムを知っていた方はよく“黒歴史”だと言う。それは僕にとって残念なことで。もちろん見ている目線が違うからだと思うんですけれど、僕から見たらラ・ムーは全然“黒歴史”じゃない。むしろ総合エンターテイメントとして格好いいものだと言いたいです。音楽だけでなく、デザインやビジュアルも含めた“総合エンターテイメントとしての菊池桃子”というブランディングをみんなが楽しむようになってほしいと思っています」

 息の長い海外発のシティポップ・リバイバルが続き、YouTubeやストリーミングサービスをきっかけに80年代の埋もれた名曲が掘り起こされる例が相次いでいる。次のスポットライトが当たるのはラ・ムーかもしれない。

2021.09.29(水)
文=柴 那典