なぜこうした現象が起こっているのだろうか?

新しいプラットフォームの誕生により息の長いブームに

 アメリカ出身で現在は日本でジャーナリストとして活動し、日本の音楽の海外受容に詳しいパトリック・セント・ミシェルさんは「2010年代半ばに最初のきっかけがあった」と解説する。

「シティポップのリバイバルは2014年から2015年くらいに始まった動きです。とは言っても、当時は一部のマニアックな音楽ファンに知られているくらいでした。そこから、2018年頃に竹内まりやさんの『Plastic Love』がYouTube上でミームとなり、それをきっかけに沢山の人がシティポップを知るようになります。さらに、最近ではSpotifyに音源が配信されたり、TikTokのような新しいプラットフォームが生まれたおかげでより一般的なリスナーが聴くようになり、息の長いブームになっています。菊池桃子さんについても、その流れの中で幅広い人たちに知られるようになっていきました」

 

ノスタルジックなメロディがポイントに

 こうしたシティポップ・リバイバルのきっかけの一つになったのが、2010年代初頭に生まれた「ヴェイパーウェイヴ」と呼ばれるジャンルの勃興だ。ヴェイパーウェイヴとは80年代から90年代の楽曲をサンプリングして加工し、どことなく甘美なノスタルジーを感じさせるテイストが特徴の音楽。ゆったりとしたテンポのエレクトロポップを、高度消費社会やレトロなコンピューターのイメージをちりばめた映像と共に発表していたアーティストたちのあいだで、かつての日本のポップスがネタ元として“再発見”された。

「2014年から2015年当時は、菊池桃子さんのことを知っている人は本当に少しでした。ただ、その中でもダン・メイソンというフロリダ州出身のヴェイパーウェイヴのアーティストは2015年のアルバム『Miami Virtual』に収録された『Waiting For You』という曲で『Mystical Composer』をサンプリングしています。おそらくノスタルジックなメロディがポイントになったのではないかと思います」(パトリック・セント・ミシェルさん)

2021.09.29(水)
文=柴 那典