ミレニアル世代・Z世代こそ高い熱量を秘めている

キャリアの最初の頃に辻さんが担当した、那須のりんどう湖のリニューアルプロジェクト。
キャリアの最初の頃に辻さんが担当した、那須のりんどう湖のリニューアルプロジェクト。

―― 辻さんがおっしゃっていた若者たちの閉塞感について、もう少し聞かせていただけますか? いわゆるミレニアル世代やZ世代ということだと思いますが。

 先ほどJICAの冊子を拝見したのですが、2019年時点で日本はGDP世界4位だったけれど、2050年には8位に転落していると書いてあったんです。

 もちろん経済成長だけが豊かさではないとは思うんですけど、上がっていく国なのか下がっていく国なのかという相対的な観点で見ると、2050年も当然生きているはずの自分たちはしんどいなぁって、私たち世代は思うわけです。特に、バブリーな時代を知らず、最初からオワコン状態で生まれてきている若者は、すごくそのプレッシャーを感じている。

 うーん、それはそうかもしれませんね。

 私の会社は「arca」というんですけど、これ、箱舟という意味なんです。その相対的な価値基準の渦に私も巻き込まれているのかもしれませんが、やっぱりすごく閉塞感があって、経済の数字だけ見ると落ちていく日本の中で、聖書でいう洪水みたいな絶望に近い混沌の時代がいずれ来るんじゃないかって、そのしんどさをものすごく感じている世代なんですね。

 じゃあ自分がなんのためにビジネスを始めたかというと、同じようなしんどさを抱えている人たちだったり、“らしさ”に縛られて生きざるを得ない人たちだったり、そういういろんな人たちを乗せて運べる箱舟でありたいなっていう思いからだったんです。箱舟は、生物の種や人種を超えて、あらゆる生き物を乗せて進む、多様性の象徴なので。

 あぁ、そうなんですね。確かに、私が就職した頃は終身雇用を前提として就職するのが真っ当な道だという時代でしたが、今は世の中が変化して、これが正しいという道しるべがなかなか見つからない。だから、若い人たちの中には、みんなで荒野を行くような感覚があるのかもしれませんね。

社会人として現JICAに続く海外経済協力基金(OECF)で働き始めた頃の原さん。出張先のバングラデシュのダッカのバザールで。
社会人として現JICAに続く海外経済協力基金(OECF)で働き始めた頃の原さん。出張先のバングラデシュのダッカのバザールで。

 そうだと思います。

 ただ一方で、まさに辻さんがそうであるように、私の社内を見ても若い人たちの意識はすごく高くて、自分が働き始めた頃より熱量をすごく持っているし、かつ外ともつながっていろんな新しいことを始めているんですよ。例えば、JICAの中で新しい事業を提案するコンテストがあるんですけど、入社1年目の人たちが集まって提案したのが、何と「虫を食べましょう」っていう企画で。

 へー、最近話題の昆虫食なるものですね。面白い!

 そうなんです。昆虫食で途上国の人たちも豊かになるし、私たちも新しい栄養源が見つけられるし、というプレゼンをして、実際に今いろいろ動いているんです。入社1年生がそういうことやるって、私らの頃は考えられなかった。そういう意味で、若い世代には非常にポテンシャルがあるし、熱量も溜まってるんだと思うんですよね。

将来のタンパク源と言われる昆虫食。日本でも少しずつ普及。 ©getty
将来のタンパク源と言われる昆虫食。日本でも少しずつ普及。 ©getty

 ちょっと分岐点に来ている感じはしませんか? 熱量はすごくあるんだけど、まだアウトプットする場がないからアクションにもつながっていないだけで、もしそれが見つかれば、水風船みたいにパーンと割れてワーッと熱を放出するんじゃないかと。そういう時期が来ているように私は感じています。

2021.08.30(月)
取材・文=張替裕子(giraffe)
撮影=三宅史郎