声を届け、声を育てるクリエイティブ・アクティビティズム

 コロナ禍によって、辻さんがおっしゃる社会の閉塞感や不均衡が強まっているように感じますが、ポストコロナの社会は、いわゆるK字型回復になるのではないかと言われています。つまり、景気が現状から回復するにつれ、豊かな人はどんどん上へと伸びていくけれど、貧しい人とのギャップは広がっていく。

 K字、なるほど。

 女性や子ども、インフォーマルセクターといった脆弱層が困窮し、子どもたちには教育機会の喪失やDVなどの危機が高まってくる。難民問題も各地で発生しています。そういう今の状況においてこそ、SDGsでいう「誰一人取り残さない」ということ、日本政府とJICAが推進している「人間の安全保障」といったことが非常に重要になると思いますね。

―― 程度の違いはあれ、日本も決して例外ではないかもしれません。

 その通りです。一方で、コロナ禍のいろいろな制約によってみんなが感じているフラストレーションを逆手にとれば、老若男女問わず一人ひとりが、自分と社会・世界との関係とは何なのだろうかと見直すきっかけになるような気もします。

 なるほど。確かにそうですね。

 例えば、我々日本人の生活って途上国と切り離せないんですね。気候変動などの地球環境もそうですし、もっと身近なところで着るものや食べるもの、すべてのものがつながっている。コットンのTシャツを1枚買うにしても、サプライチェーンをずっと遡っていくと、実はインドの片田舎の農家とつながっているわけです。

 彼ら搾取されがちな人たちの環境をどうやって改善していくのか、チャイルドレイバー、つまり児童労働をどう減らしていくか。

日本人の生活も途上国とは切り離せない。普段手にしている製品が児童労働によるものである可能性も。 ©getty
日本人の生活も途上国とは切り離せない。普段手にしている製品が児童労働によるものである可能性も。 ©getty

―― 「チャイルドレイバー・フリー」という言葉も最近ではよく耳にします。

 そうした課題も含め、このコロナの状況においてこそ、人々がより広い世界に思いを馳せて、何らかの行動に移していってほしい。そのためには、若者たちや、それほどJICAの活動に関心が強くない人たちにもアウトリーチを拡げる必要があるのですが、そういう層には、辻さんが取り組んでおられるクリエイティブやプラットフォームが親和性を持っているのかな、と。

 そうだと思います。私はよく「クリエイティブ・アクティビズム」という言い方をするんですけど、社会に対するアクションの型って、デモとか、署名活動とか、そういう型だけに決まっているわけではないと思っていて。例えば社会貢献している企業の製品を選べばアクションになるように、日常の中にアクティビズムの種ってたくさんあるんですよ。

 私の仕事で言うとメインは広告ですが、企業のメッセージを社会にどう発信していくのか、逆に言うと生活者が感じているモヤモヤや、そこにある課題に企業がアプローチするのをどう後方支援をするか、どう一つひとつの声を可視化してうねりを作っていくか、それがクリエイティブ・アクティビズムだと考えているんです。誰かの声を届ける、あるいはその声を育てる受け皿や拡声器みたいなものが、もっともっと社会に増えてほしいなと思っていて。

 クリエイティブというアプローチをとることで、確実に輪は広がっていくということですね。

 そうなんです。クリエイティブって、コピーやデザインを一つ加えるだけで、説教臭さをなくして声を届けやすくする力があると思うんですね。自分からは遠く感じる課題とか、一人では変えようがないと思うような状況とかであればあるほど、そういうポップな表現が大事になる。

 そう信じて、私はクリエイティブ・アクティビズムを掲げて仕事をしていますし、JICAの活動についても、役に立つ見方かもしれません。

辻さんが企画した2019年の「LadyKnowsFes」。女性の健康と生き方をアップデートする、新しい健康診断の形を提案。
辻さんが企画した2019年の「LadyKnowsFes」。女性の健康と生き方をアップデートする、新しい健康診断の形を提案。

2021.08.30(月)
取材・文=張替裕子(giraffe)
撮影=三宅史郎