――漫画のバードのキャラクターは、人力車の車夫からもらった木苺を口にしたり、混浴の温泉に入ったり、何でも果敢に挑戦します。実際の彼女と近いのでしょうか。

佐々 テーマを最優先にして、それをより面白く描くために漫画のバードのキャラクターを作ったので、かなりアレンジは加わっています。ただ、バードの旅行記を読む限り、彼女はとにかく好奇心の塊のような人で、自分の興味を満たすためなら命を懸けられる性格だと分かります。

 危険で誰も行かない場所ほど行きたがるし、行けば行くほど元気になる、そういうタイプの女性であることは史実としてわかっているので、そこに肉付けしていった感じです。面白く描くことは漫画という娯楽作品としての宿命ですから、史実をもとにその行動的な部分をより前面に押し出して、強調するようなキャラクターにしました。

 

バードのバディ・伊藤鶴吉はクールで寡黙なキャラ

――一方バードの通訳である伊藤鶴吉は、クールで寡黙なキャラで、バードとは真逆の性格となっています。

佐々 主人公のバディですから、物語の展開を生んでいくために、バードとは対照的なキャラとして描いています。やはり娯楽作品において、陽と陰の対照的なコンビというのはセオリーとしてありますから。元気でいつもポジティブなバードに対して、伊藤は後ろ向きでネガティブなキャラになっていますが、対照的なのはそれだけではありません。何でも聞きたがるバードに対して、何でも教えてくれる伊藤。行動を起こし頻繁に失敗するバードに対して、何でもそつなくこなす伊藤。主要キャラのそういった対比はエンタメとして大事です。

 ただ、伊藤もまったくのフィクションというわけではなく、史実をもとに膨らませたキャラなんです。実際の伊藤も非常に優秀でありながら、普段は無愛想で、バードに対して失礼な言動をすることもあったようです。

風物の資料に囲まれた佐々さんの仕事机
風物の資料に囲まれた佐々さんの仕事机

 まあそもそも、実在のバードも作家ですから、ノンフィクションである旅行記を書くにしても、面白く読めるような工夫をしていた可能性はあると思うんですよ。例えば、伊藤の言動の描写に嘘はなかったと思いますが、伊藤のどういう部分を抽出して書くか、逆にどういう部分をカットするかで、読み物としての面白さは変わってきますよね。そういうところはバードも意識して書いていたと思うし、そんな『日本奥地紀行』を漫画の視点からまた脚色し直したのが、『ふしぎの国のバード』であるとも言えます。

 【後編に続く 「ネームには3か月もかかりました(笑)」 デビュー第1作・佐々大河が決めた『ふしぎの国のバード』で‟嘘をつく”ためのルール

(文=二階堂銀河/A4studio)

「ネームには3か月もかかりました(笑)」 デビュー第1作・佐々大河が決めた『ふしぎの国のバード』で‟嘘をつく”ためのルール へ続く

2021.07.10(土)
文=佐々 大河