こうして全国各地でそれまで以上にアイスクリームが消費者の身近な製品になったわけだが、当時のアイス業界といえば、雪印、明治、森永がアイスストッカー(アイスショーケース)内を占領していた時代。多くの商品は、青色の単色デザインのカップアイスやバータイプのアイスが多く、会社名を目立たせた商品が中心だった。

 そんなとき、バニラアイスをチョコやクッキークランチで覆った「ブラックモンブラン」は高級感を漂わせ、さらに会社名よりも商品名を前面に押し出しカラフルなパッケージデザインで店頭に並んだ。当時としては珍しかったこの意匠が他社との差別化を実現し、売り場の中でひときわ存在感を放ち続けたのである。

 

ご当地アイスが果たす大きな役割

 こうして地元で長年にわたって店頭の注目を集め、その味でファンに愛されてきた「ブラックモンブラン」。誕生から50年以上たった今も、九州では抜群の知名度を誇る。

 ご当地アイスの魅力は、地域の歴史・継続性を感じられる点だ。これは地域限定のお菓子やパンなどもそうだが、昔からその地域で変わらずにあるものは、老若男女問わず認識され親しまれている。

 そのため、たとえその土地から離れてしまっても、その地域の人と再会した際、地域限定の食べ物はしばしば盛り上がる話題として活躍する。その意味で、ご当地アイスは地域の繋がりを保つ役割もある。いいかえれば、コミュニケーションを生み出すパワーコンテンツなのだ。

 今後もそのような役割も担うためには、世代を問わず認識され続ける必要がある。そのため、多くの製造元はトレンドに左右されないよう、味やパッケージデザインをなるべく変えずに地元の味を守ろうとしており、利益以上にご当地アイスの持つ地域のつながりを維持する役割にこだわっている。私自身、そこにご当地アイスの魅力や必要性があると思っている。

関東上陸の先に見据えることは…

 一方で、竹下製菓は、今までに「ブラックモンブラン」を超える既存ブランドや新ブランドが未だに育っていない。アイス業界全体に目を向けても、飲むアイスとして誕生したロッテ「クーリッシュ」(2003年)、バニラアイスとチョコが口の中でとろけ合うのが特徴の森永乳業「パルム」(2005年)以降、エポックメイキングなブランドが育っていない。

2021.06.15(火)
文=荒井 健治