京都の魅力あふれる古民家カフェを、ライター・喫茶写真家の川口葉子さんがご案内。
和菓子であれ洋菓子であれ、お菓子を愛でることは、めぐる季節を愛でること。古民家カフェにはとびきりのお菓子が待っています。
◆デザートカフェ長楽館
煙草王の名建築で百年のアフタヌーンティー

円山公園には京都の腕利きの桜守たちが大切に守り育ててきた、名高い枝垂れ桜がある。その近くにそびえる長楽館は、樹齢九十年になる現在の二代目桜の姿も、樹齢二百年を超えて生き続けた初代の名桜の姿も静かに見守ってきた。
1909年に“煙草王”が建てた三階建ての洋館。この名建築の中にあるカフェを訪れるなら、できれば二人でアフタヌーンティーを予約して出かけたい。専用の「迎賓の間」と呼ばれるとびきり優美な部屋で、明治時代に「西の鹿鳴館」と讃えられた長楽館の栄華に思いを馳せながら、ティータイムを過ごすことができる。
バカラ社製のシャンデリア。整然とセットされた名窯ヘレンドや大倉陶園の食器や銀のカトラリー。テーブルに案内されると胸が高鳴る。

注目してほしいのは、アペリティフのグラスが置かれるコースター。長楽館の最初の主人だった村井吉兵衛の「村井煙草」のパッケージデザインをそのままコースターにしており、当時大ヒットしたハイカラで洗練されたデザインから時代の光景が浮かんでくるのだ。
実業家・吉兵衛の人生といい、長楽館が百十余年の間にたどってきた運命といい、あまりにもドラマティックなので「映画として観てみたい」という欲望に駆られてしまう。着飾った紳士淑女が笑いさざめく明治時代の長楽館。好きな俳優が主人公を演じている場面を想像すると、ティータイムの楽しみはいっそうカラフルに彩られる。


2021.06.08(火)
文・撮影=川口葉子