だが、これほどの受賞歴にもかかわらず、彼は韓国映画界の主流に組み込まれず、「アウトサイダー」「異端児」として扱われてきた。韓国在住の映画プロデューサー兼映画評論家の土田真樹さんは、「キム・ギドクの映画は、人々が背を向けたい部分をわざと見せてくれる“居心地悪い!”映画だ」と説明する。

「キム・ギドクの映画で見られる女性に対する性的暴行や暴力があふれる世の中は、世界のどこにでも存在する。しかし、人々はそれを見たがらない、また見せたくもない。この、背を向けたい部分をわざと見せるのがキム・ギドクだ。例えば、『パラサイト』のキムの家族は住む空間があり、電気を止められずに暮らせる程度の貧困層だ。こうした家族は周りに存在するため、観客は彼らを見て同質感を得る。

 しかし、キム監督はむしろ拒否感を持つ社会の最下層の暮らしを赤裸々に暴き出す。まさにこうした点が、他の監督には絶対に撮れない“キム・ギドクだけの映画”を作り上げる力であると同時に魅力なのだ」。キム・ギドク監督の映画の男性主人公たちは一様に韓国社会で「悪人」に区別される人間群像だ。

 

残忍な場面が多い理由

 デビュー作の『鰐 ワニ』のヨンペは、漢江に飛び降り自殺した死体を隠しておき、探してほしいという遺族からお金をせびりながら生きていく詐欺師浮浪者だ。サンダンス映画祭やブリュッセル映画祭で受賞し、キム・ギドクを世界に知らしめた『魚と寝る女』(2000年)や、韓国内で最も高い評価を受けた映画『春夏秋冬そして春』の主人公は殺人者だ。福岡アジア映画祭のグランプリ受賞作『悪い男』(2001年)のハンギはやくざだ。ベネチア映画祭受賞の『嘆きのピエタ』のガンドはサラ金業者の手下である。

 一方、ヒロインは大半が売春婦だ。このため、彼の映画には人間の野蛮性が極大化され、残忍な暴力場面や女性を虐待する性的描写が頻繁に登場し、常に「精神的に問題がある監督」「百害あって一利なしの監督」「強姦映画の監督」という酷評が付きまとった。このような評価に対して、キム・ギドク監督は『キム・ギドク、野生あるいは贖罪羊』(2003年、幸せな本を読む出版社)で自筆手記を通じて次のように抗弁する。

2021.05.16(日)
文=金 敬哲