4.『BEASTARS』
この気持ちは恋? 本能? 唯一無二のハードな世界観
ここまでは週刊少年ジャンプの作品を紹介してきたが、週刊少年チャンピオンの作品で、アニメの第2期もスタートした『BEASTARS』も推したい。
本作は、擬人化された動物たちが住む世界を舞台に、ハイイロオオカミやアカシカ、ドワーフウサギが「肉食」「草食」といった宿命に抗おうとするさまを描く青春群像劇。2018年の第11回マンガ大賞で大賞を受賞したことも、記憶に新しい。
『BEASTARS』は、一にも二にも、世界観がハードだ。この世界では肉食と草食が共存するため、お互いの本能を隠している。だが、肉食獣は「裏市」というものを作り上げ、そこでこっそりと草食獣の肉を買っている。
さらに、巷では肉食獣が草食獣を食い殺す「食殺事件」が横行。草食動物は内心では怯え、肉食動物は本当は飢えている。
そんななか、ハイイロオオカミのレゴシは、ドワーフウサギのハルを一度は食べようとしてしまうが、やがてその想いは恋心へと変わっていく。とはいえ、肉食獣と草食獣の共存は試練の連続で……。
描かれるのは擬人化された動物であり人間ではないが、私たちが持つ差別意識や支配欲といったダークな側面、さらには恋愛の難しさといったディープな内容に果敢に切り込んでおり、人間同士の物語以上のインパクトを与えることだろう。
寓話的なエッセンスでメッセージ性あふれる物語を構築した、作者の板垣巴留氏の感性にうならされる。
“心の在り様”を丁寧に掘り下げる
緻密な設定で輝くのは、キャラクターたちの心情描写だ。全員に正の面と負の面があり、それぞれが「肉食」「草食」という自己アイデンティティに苦しみながら、居場所を模索していく。
綺麗ごとで片付けず、聖人君子として描くこともせず、“心の在り様”を丁寧に掘り下げていく本作は、まさに「リアル志向のファンタジー」にふさわしい。
少年マンガらしいバトルシーンも盛り込まれているが、こちらも「傷が消えない」描写が目立つ。レゴシは、様々な面々と戦うなかで成長していくが、同時に体には傷が刻まれていく。
ライバルであり相棒でもあるアカシカのルイも、多くの試練を乗り越え、心身に変化が生じていく。このリアリティも、多くの読者から支持されている理由のひとつだろう。
最終22巻が1月に発売されたばかりだが、深い余韻を残す大団円を迎えており、我々の「世界に対する見方」を変えてくれる傑作といえる。
2021.05.10(月)
文=SYO