2.『呪術廻戦』
「人は死ぬもの」圧倒的な現実感が立ちはだかる
その堀越氏に、「次にジャンプを背負っていく漫画です」と言わしめたのが、絶好調の『呪術廻戦』だ。本作は、「人を襲う“呪い”と、呪いを祓う“呪術師”の戦い」を描いた物語。
「呪いの王・両面宿儺」の指を食べたことで宿儺を内に宿すことになった高校生・虎杖悠仁が、呪術師を育成する東京都立呪術高等専門学校に入学し、戦いの日々に身を投じていく。
ベースにはしっかりとしたバトル漫画の面白さがあるが、死生観が実に先鋭的。読む者に新たな価値観を与える野心作といえる。
『呪術廻戦』の前提にあるのは、「人は死ぬもの」という圧倒的な現実感だ。バトル漫画の多くは「絶対に死なせない!」という信念のもとで動くものだが、虎杖においては「人は死ぬもの。だからこそ、“正しい死”に導きたい」が行動理念になっている。
もちろん、死なせぬように動くのだが、根底にこの考えがある。こうした主人公像は非常に新しく、同時に極めてリアルだ。
私たち自身、人はみな死ぬことを知っている。そのことを、ファンタジーの世界にしっかりと持ち込んで、主人公に言わせる『呪術廻戦』は、ある意味で「嘘をつかない」作品ともいえる。
主人公・虎杖に降りかかる容赦ない試練
さらに、本作の偉大な部分は、「心は治らない」という真摯な目線だ。
虎杖は目の前で大切な人を殺されたり、両面宿儺に取って代わられ、好き勝手に暴れられたりと、とにかく追い込まれていく。さらには、「呪霊」という敵によって改造された人間を倒さなければならなくなる。
「人を“正しい死”に導きたい」と思う主人公に、人を殺させる試練をぶつける冷酷さ。本作では第1話から最新話に至るまで、虎杖に徹底的に試練を与え続け、そのたびに絶望しながらも、また立ち上がるさまを描く。
しかし、克服かというと少し異なっており、心が完全に治ることはないが、消えていった者たちの分も自分がいま動かなければならない、という使命感によって虎杖が戦いに赴いていくという心理描写が絶妙だ。
そもそも『呪術廻戦』における“呪い”とは、人間の負の感情から生まれ出るものであり、簡単に消えてくれるものではない。虎杖の同級生である伏黒恵も釘崎野薔薇も、“過去”にとらわれている。戦いのたびに心の傷が増えながらも、彼らが前進する姿は、“人”を丹念に描いている本作ならではの描写だ。
作者の芥見下々氏は「ヒロアカのような、雑誌、延いてはジャンルの柱があるからこそ、新人(わたしたち)はトライ&エラーができるんです‼」と語っており、本作が試行錯誤を繰り返しながら見せてくれる斬新さが、次代を作っていくことだろう。
2021.05.10(月)
文=SYO