頭の中で育てた「もうひとつの世界」
マーク・マンダースは、オランダ生まれでベルギーを拠点に活動するアーティスト。長らく現代アートの第一線で、特異な存在感を放ち続けている。
彼の大きな特質は、30年以上にわたって同じひとつのコンセプトを掲げ、創作を継続してきたところ。
そのコンセプトとは、「建物としての自画像」というもの。これもまた意味がつかみづらい。いったいどういうことか。
文章で自分を表現することに関心のあった若き日のマンダースは、あるとき自伝執筆を試みた。だが小さい町で暮らしていた彼の身の周りには、とくに語るべきトピックもない。そこで架空の建物と人物を思い描き、頭の中で育てることをするようになった。
自分の内部に築いた虚構は、日に日に成長していく。目に見えない建物と存在しない人物のストーリーは、際限なく肥大化。自分の中で溢れそうになったビジョンを、マンダースは展示空間で吐き出すように、大々的に展開しているのである。
なるほどしくみとしては、小さいころに耽った「ままごと」や「ごっこ遊び」と同じか。マンダースはそうした誰にとっても懐かしい遊戯を、いまだ壮大なスケールでやり続けているわけだ。
そう考えれば彼の作品が、本人以外には意味の分からぬところも多いのにやたら人の心を惹く理由も、何となく理解できるではないか。
この展示会場全体が、マンダースによる「もうひとつの世界」なのである。今展に出品されているオブジェや作品は33点に及ぶが、「空間全体をひとつの作品として見てもらえたら」というのが作者マンダースの意図と思いだ。
別世界で存分に遊ばせてもらって、夢見心地で美術館を出ると、そこにも大きな彫像が置いてある。それも展示品のひとつ、《2つの動かない頭部》だとのこと。
マーク・マンダースの作品世界が、現実にまで漏れ出してきてしまったのか? 一瞬、そうヒヤリとさせられるのだった。
2021.04.13(火)
文=山内宏泰