世界的なホテリエが手掛けた家庭的な温かみのある“旅館”
アマンの創業者にして、伝説のホテリエ、エイドリアン・ゼッカー氏が提案する、“日本文化の新しい表現としての旅館”である「Azumi Setoda」。かつて製塩業と海運業で財を成した堀内家の築140年以上の邸宅を丁寧に改装した全22室のお宿です。
入り口に大きな看板はなく、旧家のお屋敷のままの佇まいは、ともすれば通り過ぎてしまいそう。「よそ様の家かも……」とためらいつつ、引き戸を開けると、天井高9メートルの開放的な空間が広がります。
ユニークなのは、空間の線引き。レセプションやダイニングはパブリック、客室へ向かうまではセミプライベート、客室に入るとプライベートな空間にと分けられます。
各部屋でデザインが異なる坪庭があるのも特徴。室内から庭へとシームレスにつながっています。海に近いこのエリアにおいて、庭は日光や風を通して湿気を防ぎ、あるいは、強い潮風をさえぎる大切な存在だったのです。
なぜ世界的なホテリエのゼッカー氏が旅館を手がけるに至ったのでしょう?
それは1950年代、彼がタイムマガジン社の記者として日本に駐在していた頃のこと。旅館に滞在し、主や女将が迎えてくれる家庭的なおもてなしに感銘を受け、第2の我が家のように帰る感覚を味わい、やがてコミュニティに入り込む楽しさを体験。
家族の中に遊びに行けるような宿泊施設を作ってみたい。それが、アマンの着想の元でもあったそうです。そしてついに、原点である日本に旅館を作ることに!
「Azumi Setoda」と通りを挟んだ、「yubune」は、同時オープンした銭湯&旅籠。こちらは地元の人との交流も目的のひとつになっているそうです。
2021.04.10(土)
文・撮影=古関千恵子