
住宅街に現れる森、神秘的な寺などが点在する「西奈良エリア」。
この地とゆかりが深い作家・森見登美彦さんに魅力を伺い“森見ファンタジー”を育んだ、ひと味違った奈良の旅へと誘います。
古き都に住む人は四方が低い山だと安らぐもの

新興住宅街に古い寺や神社が点在しているのが西奈良の面白さ。
エッセイ『ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し』で綴られているように神社仏閣を覆う森を「不思議な世界への入り口は近所にある」と感じていたという。
「王龍寺は高校時代によく行っていた寺のひとつ。中に長い山道があり、いつ行っても人気(ひとけ)がなくて静かなんです。神様がいるみたいというか。本堂の前に腰かけがあって、よくそこでぼーっと過ごしていました」
山に囲まれた街並みは森見さんにとっては心安らぐ原風景でもある。

「奈良県人は低い山が好きなんです(笑)。なだらかで、ゆったりとした山がないと安心できない。京都を含めて昔の都に住んでいた人は、同じ感覚を持っていると思いますよ」
また、どこか秘密めいた場所と語るのが広大な敷地に建つ料亭 百楽荘。

「一軒まるごと借りられる、秘密基地みたいな和食の店です。贅沢な場所なので記念日など特別な時に伺います」
西奈良を旅するなら、生駒山まで足を延ばしてほしいと森見さん。そこで、お茶目なデザインの生駒ケーブルに乗り、宝山寺駅で下車。生駒山の中腹にある寳山寺は、自然豊かでピースフルな時間が流れている。
「息抜きに寳山寺の山間を登り奥の院まで散歩に出かけると気分転換になります。生駒山は僕にとっては特別な場所なんですよね」
「不思議な世界への入り口は近所にある」これこそ、子ども時代の私を支配していた感覚だった。
――『ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し』より
野趣あふれる里山に建つ神秘に満ちた禅寺
◆王龍寺

西奈良の矢田丘陵に作られた禅宗の寺院で現在の形になったのは江戸時代。
本尊の十一面観音菩薩像は岩壁を仏の形に彫った磨崖仏で、蝋燭の灯で照らされた神秘的な姿に心奪われる。

樹齢300年以上のヤマモモの大木や本堂周辺の山林は、奈良市の指定文化財であり、手付かずの里山の自然に浸ることができる。
「新緑や紅葉の時期はとくにきれいですよ」
王龍寺
所在地 奈良県奈良市二名6-1492
電話番号 0742-45-0616
http://oryuji.com/
2021.04.13(火)
撮影=佐藤 亘
CREA 2021年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。