住宅街に現れる森、神秘的な寺などが点在する「西奈良エリア」。

 この地とゆかりが深い作家・森見登美彦さんに魅力を伺い“森見ファンタジー”を育んだ、ひと味違った奈良の旅へと誘います。

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桜が咲き誇るころの風景は聖なる“死後の世界”のよう

 『夜は短し歩けよ乙女』をはじめ、京都を舞台にした作品が多い森見登美彦さんだが、出身は奈良。

 近鉄奈良駅から大阪方面に向かう近鉄沿線、奈良北西部に、小学4年生から高校時代まで住んでいた。数年前からは執筆の拠点を置いている。

 「ここは森や野原だった丘陵地帯を切り拓いた新興住宅街です。新しさのなかに古いものが残っているところが好きなんですよ。

 『ペンギン・ハイウェイ』には、子どものころに過ごしたこの街の風景がちりばめられています」

 お気に入りの散策ルートは大和文華館と中野美術館があるアートエリア。

 「大和文華館に竹の中庭があって、そこに光が差し込む景色が神秘的です。敷地内の庭もきれいで、紫陽花や梅などを見に行ったりしていますね。

 目の前には日本書紀に記されていた蛙股(かえるまた)池が広がっており、とくに桜が満開の時期がいい。

 池に架かった長い橋から大和文華館と隣の中野美術館、近くにある菖蒲(あやめ)池神社をぐるりと見渡すと聖なる“死後の世界”のように感じます」

 丘陵の地形を生かし、高台には眺めのいいカフェもある。

「喫茶店の梨風庵は大渕池と松伯美術館が望める、美しいお店です。かなりおしゃれな雰囲気で、僕にはあんまり合ってない気がしますけど(笑)」

 そんな閑静な住宅街に突如としてペンギンが現れる物語が『ペンギン・ハイウェイ』。旅の途中、ふと目にした小道をペンギンがよちよち歩く姿を想像し、しばし空想の世界へ。

郊外の街である。丘がなだらかに続いて、小さな家がたくさんある。駅から遠ざかるにつれて街は新しくなり、レゴブロックで作ったようなかわいくて明るい色の家が多くなる。
――『ペンギン・ハイウェイ』より


日本や中国などの名作をテーマに合わせて展示

◆大和文華館

 門からスロープを進むと、桃山時代の建築、なまこ壁を模した芸術的な建物が目に入る。

 こちらは日本や東洋のコレクション約2,000点を所蔵する美術館。年8回のペースで展覧会が行われ、2021年4月4日(日)までは、中国の影響を受けた京都の鹿背山焼の作品を展示していた。

「ほどよいサイズの美術館なので気軽に行きやすく、展示作品が定期的に変わるので行くたびに楽しめます」

大和文華館

所在地 奈良市学園南1-11-6
電話番号 0742-45-0544
開館時間 10:00~17:00(入館は16:00まで)
休館日 月曜(祝日の場合は翌平日休み)※展覧会開催時のみ開館
料金 一般 平常展 630円、特別展 950円
https://www.kintetsu-g-hd.co.jp/culture/yamato/

2021.04.12(月)
撮影=佐藤 亘

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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