舟屋は漁師さんにとっての“作業場”として建てられた

 それは、雨・雪・湿気の多い、この地の気候によるところがあります。

 木造船は乾かさないと腐ってしまう。麻でできた網も乾燥させなくてはならない。そこで、船を滑車で釣り上げ、水から引き揚げて、保管していたのです。2階は漁具などの収納に使われていました。

 なので、舟屋は漁師さんにとっての作業場。道を挟んだ内陸の母屋が暮らしの場。母屋・蔵・舟屋がまとまって建っているのが本家で、分散しているのが分家だそうです。

 今の舟屋は船の舳先を家の内側に向けていますが、クジラ漁が盛んだった頃はすぐに出船できるよう、舳先は外に向いていたとか。

 伊根港にクジラが入ってくると、青島の物見台からのろしが上がり、一斉に臨戦態勢。湾の入口である2カ所を船で塞いで、追い詰めていく戦法です。

 その一方で江戸時代の当時、クジラは課税対象。仕留める頃を見計らって、お役人さんがやってきます。が、そこはのんびりしているというか、課税額を決定するのはざっくりとした目測。

 なので、クジラの近くにできるだけガタイのいい漁師さんを並べ、対象を小さくみせる努力をしたとか⁉

 こうした舟屋にまつわるエピソードや内部の見学は、伊根町観光協会で申し込める「舟屋ガイドとめぐる、まるごと伊根体験」で体験できます。

 舟屋は観光施設ではなく、地元の方々の暮らしや仕事の場であるので、こうしたツアーに参加すれば、迷惑をかけることなく、安心です。

2021.03.27(土)
文・撮影=古関千恵子