「SNS上でリスナーをスルーすることにずっと疑問があった」

――最近ではTikTokも始められて。

 去年の私だったら、「私のTikTokなんて需要あるのかな」って斜に構えてたと思うんですけど(笑)。いろんなアーティストの方が柔軟に始めてて。あと、中学生の姪っ子がTikTokをすごい見てて、それでお兄ちゃんから「やりなよ」って言われて。最初は「えー?」とか言ってたんですけど(笑)、考えれば考える程、音楽を伝えるツールとしてやって損はないのかって思って。

 そうしたら、リスナーの方もすごくポジティブに反応してくれたので、自分の考え方は古かったなって反省しましたね。しばらくは弾き語りでいろんな曲を届けようと思ってます。

――SNSではファンの方とよくコミュニケーションされているのが印象的です。

 バンド時代から、写真のイメージとかで「怖い」って言われることが多かったんですけど、打ち上げとかでは私たちは結構フランクなので、「話すとギャップがある」って言われてて。でも、聴き手の方との距離は特に考えてはなかったんですよね。

 ただ、神様みたいなアーティストが多いなと思った時があって。どっか上から見てるっていうか。自分は神格化されたり偶像化されたり、実像と違うものが歩いていくのは嫌で。

 あと、ネット上でいろんな意見がこんがらがってて、でもマンツーマンで話せばわかり合えるんじゃないかなって思ったことも多かったんです。

 それで「自分はこういう者です」ってまず名乗ってから、自分発信でコミュニケーションしていけばいいじゃんって思ったんですよね。そこからリスナーの方と同じ土俵に立ってると思いながらコミュニケーションするようになりましたね。その方が面白いし、勘違いが減っていく。

 イメージだけでいろんなことが語られていくのはキリがないし、自分の言葉で説明できることはしたほうがいいと思っていて。ただの人間と人間のコミュニケーションを大事にしようと思ったっていうだけなんですよね。

 SNSでプライベートを見せることが普通になってる時代だから、そういうことがしやすくなってきてるっていうのもあると思います。リスナーをスルーすることにもずっと疑問があって。私はその人たちに音楽を伝えたくて活動してるので、それはずるい感じがしちゃうというか。

 私のやり方を「上手じゃない」って思う人もいると思うんですけど、それでもいいかなと思ってます。難しいところだと思いますけど。友達と同じような感じでリスナーと向き合えたら、自分の中で納得感があるんですよね。

――誰にもわかってもらえなくて良い芸術を作ってるわけじゃなくて、人と向き合っているわけですもんね。

 そうですね。幼少期や学生時代はひねくれてて、人間が本当に嫌いで。今でも好きかって言われたらわかんないんですけど、好きになれるように見ようっていう気持ちではいますね。

 人のいいところを見るようにした方がストレスがないし、生きるのが楽だなって。嫌いな人のことを考えながら生きてくのは辛いから。自分も完璧じゃないってどっかで思ったんですよ。私も全部信じてもらえるような行動ができてるかっていったらわからないし。だからお互い様だなって。

 人を嫌いなままでいいと思ってた時代と、ちょっとでも好きになれたらって思ってる違いが今のコミュニケーションに出てるのかもしれないですね。

2021.03.25(木)
文=小松香里
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=入江陽子(TRON)
ヘアメイク=SAKURA(まきうらオフィス)