「何が面白いのか分からない」って言われました(笑)

――芸人であることについて語った回があれば、過去の出来事を振り返る回もあり……。そんな中、明らかにエッセイを逸脱した回もありますね(笑)。

 野球の試合をただただ書いてるだけの回(「埼玉西武ライオンズ(複数形)vsオリックス・バファローズ(複数形)」)とかですね。あの回は担当編集さんに「何が面白いのか分からないです」って言われて、書き直しさせられそうになりました(笑)。あ、そういえば「面白くないです」ってはっきり言うてましたわ!(笑)

 あれをひとりだけ褒めてくれたのが、ライブ終わりに出待ちをしていた大学生くらいの男の子。「この回が一番好きです」って言ってくれて、嬉しかったー! 「俺は面白さ分かってますよ」みたいな雰囲気でね(笑)。

――(笑)。そもそも、担当編集の方からは「こういうテイストの文章を書いてほしい」といったオーダーはあったんですか?

 それは特になかったです。毎回、テーマはもらってたんですけど、基本的には「お好きなように」って。そしたら、1回目、2回目は芸人論やジェンダー論だったのに、その次からネタみたいなやつになったから、「こいつ急にネタ書くやん」って思われたでしょうね。

 ときどき普通に「ここスベってますよね?」とか、愛のあるダメ出しをしてくれる担当編集さんが私は大好きで。正直な意見をくれるからこそ、「面白かったです」って言ってくれるときは、きっと嘘じゃないんですよね。

書くことで自分をもっと知ることができた

――試行錯誤しながら書き続ける中で、書くことの楽しさは感じられましたか?

 お題をもらって、それに対して自分なりの答えを出すという作業は、他の仕事では味わえないので楽しかったです。何の情報性もない文章なのに、読んでもらえてありがたいですし。

 一方で、何かを書くことによって「このことは書かないな」って、自分が無意識に避けてることが明確になったのも感じます。毎回それなりの量の文章を書いても、決して感情のすべてを書いてるわけじゃない。格好つけてるし、人に言っていい弱みしか書いてなくて、本当に人に知られたくない弱みは避けてる。そういう意味では、書くことで自分のことをもっと知ることができたのかもしれません。

――本作には、自身初となる書き下ろし短篇小説「帰路酒」も収録されています。これからはエッセイに限らず小説を書くことも考えていますか?

 書いていきたいとは思いますが、今回短篇を書いてみて、めちゃくちゃ力ないなと思いました。今からでも間に合うのなら、ここから力をつけていきたいですね。小説を書くときには、ネタを作るときの「何から作ってもいい」っていうのと同じ、自由な感覚があるんです。

――短篇小説、どんな作品なのか少しだけ教えてください!(編集部注:取材時は未完成)

 「帰路酒」に関してはテーマも自分で考えていて、1回ネタとして作ったものが元になっている作品です。あるときライブのオーディションでこのネタをやったら、スタッフに「意味わからん」ってむちゃくちゃダメ出しされて、ムカついたので小説にしました(笑)。ライブでも全然ウケなかったんですけど、なぜか自分の中でテーマは気に入っていて。だから、いつか文章にしたいなという思いが叶って嬉しかったです。いや、この小説が良いか悪いかは読者が決めるので、結果「意味わからん」って思われるかもしれないですけど(笑)。

『イルカも泳ぐわい。』

加納愛子(Aマッソ) 筑摩書房 1,400円
発売日 2020年11月18日(水)

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加納愛子(かのう・あいこ)

1989年、大阪府生まれ。2010年に幼馴染の村上愛と、お笑いコンビ「Aマッソ」を結成。ネタ作りを担当している。10月より、初の冠ラジオ番組「Aマッソの両A面」(MBSラジオ)が放送中。

2020.11.13(金)
文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘