“天才コント芸人”がつかみ損ねていたタイトル

 もちろん、例年ほどコンテスト仕様にネタが磨き上げられていないとはいえ、厳しい予選をくぐり抜けたファイナリストのコントが面白くないはずはない。決勝はいつも通りの盛り上がりを見せていた。

 そんなコロナ禍の中で行われた波乱の大会を制したのは、コントの達人として名高いジャルジャルだった。彼らは『キングオブコント』が始まった2008年から毎年出場していたが、一度も優勝できていなかった。13回目の挑戦でようやく栄冠を手にした。

「キングオブコント2008」記者発表会。最後列中央にジャルジャルの姿があるが、この年は決勝進出も叶わなかった ©時事通信社
「キングオブコント2008」記者発表会。最後列中央にジャルジャルの姿があるが、この年は決勝進出も叶わなかった ©時事通信社

 ジャルジャルは若手の頃から天才的なコント芸人として業界内では有名だった。黒のTシャツにベージュのパンツという揃いの衣装を身にまとい、ほかでは見られないような独自の切り口のネタを演じていた。

 その才能が評価され、大阪のお笑いコンテストを一通り制覇した後は、『爆笑レッドシアター』『めちゃ×2イケてるッ!』などの全国ネットの人気番組にもレギュラー出演して、日本中にその名をとどろかせた。これまで芸人として数々の栄光を手にしてきた彼らが、唯一つかみ損ねていたものが『キングオブコント』のタイトルだった。

1日1本ネタを作る「コントマシーン」

 ジャルジャルという芸人の特徴は「コントマシーン」の一語に尽きる。彼らのネタ作りと演技は機械のように精密である。年に2回の単独ライブのために年間300本はネタを作っているという。およそ1日1本という驚異的なペースだ。

 単独ライブでは、その中からよりすぐりのネタだけを披露していたのだが、2年前からはそこで見せていなかったボツネタを「ネタのタネ」と名付けて、YouTubeチャンネルで毎日公開するようになった。これによってチャンネル登録者数も順調に伸びていき、彼らは人気YouTuberの仲間入りを果たした。

 そんな彼らが今年の決勝で披露した1本目のコントは「野次ワクチン」。競艇場での初めての営業を控えて、後藤淳平が演じる新人歌手が楽屋で緊張している。そんな彼のための練習として、福徳秀介が演じる事務所の社長が、歌っている彼に次々に心ない野次を浴びせていく。社長は歌手のために野次を飛ばすことを「野次ワクチンを射つ」と表現する。

 歌手が歌い始めると、すかさず社長が野次を入れる。野次の内容があまりにも真に迫っているので、歌手が思わず歌を止めて社長に話しかけると、練習なんだから何があっても歌を止めるなと怒られる。そのやり取りが延々繰り返される。

2020.10.04(日)
文=ラリー遠田