マスクの色やデザインはどう決まる?

 さて、ここで、ひとつ疑問が生じる。色付けの手間は同じなのに、なぜ他社がビビッドカラーに手を出さなかったか? である。

 「それは、不織布のロールのオーダーが1トン単位なので、ブーム以前は、それだけの量を使い切る見込みが立たなかったからではないでしょうか。カラーマスクも、洋服と同じでトレンドがありますから、ひとつの色の寿命は意外に短いんです」

 一度作ると決めたら大量生産となるカラーマスク。当然、色やデザインの選択には慎重にならざるを得ないだろう。

 「新色を出す際には、洋服からスマホまで、生活を取り巻くさまざまなアイテムのトレンド、次にくる流行色などを多角的に分析して見極めていきます。ブランドイメージに合うかどうかも重要なポイントです。

 私はデザインを学んできたので、その知識を活かし、微妙なニュアンスにも徹底的にこだわって作ってきました。幾度もの調整を経て、ようやく完成するのが新色。ですから、このブームに乗って似たようなものは出てくるでしょうけど、完全コピーはとても難しいと思いますよ(笑)」

 と自信を見せる。実を言うと、試着してみるまでは“色出しの妙”については半信半疑だったが、実際に着けてみると、このマスクの色が持つパワーのすごさがわかる。

 その実感については、熱苦しく語った前篇を参照していただくとして、ここでは洋服をモードに寄せるほどマスクが引き立ち、また同時に洋服の魅力をも引き立てる、と繰り返しておこう。

 今回、ひとつ付け加えるなら、顔色のくすみや法令線が気になるお年頃のほうが、よりカラーマスクの魔法の効力が高いように思う。

 洋服とのコーディネートに関してもうひとついえば、台湾の一般的なサージカルマスクを着ける生活のなかで、どうにも悩ましいのが薄緑色のマスクである。最も無難なモノトーンで全身をまとめても“壊滅的な何か”をプラスした感が否めない。平たく言えば、どんなファッションも台無しにする破壊力を持っているのだ。

 防疫第一の段階から脱した今、色を選り好みする贅沢が許されるなら、せめてお気に入りの装いで出かける日には、カラーマスクを身に着けたい。

 「すでにいろいろなカラーを集めている方は、装いに合わせて楽しんでいだたいているようです。同系色でまとめる、差し色として使う、アイメイクとリンクさせる等々、楽しみ方はいろいろあると思います。

 レース柄マスク『csd×謝金燕 姐姐・蕾絲口罩』は、ファッション誌上でマスクを主役にしたメイク特集が組まれました。マスクのデザイン性が高まれば高まるほど、マスクを際立たせるための装いが可能になってくるでしょう」

 サージカルではないが、日本のドメスティックブランド「gomme」では、ブランドを象徴するカラーである黒色のフェイスカバーを着用したビジュアルを発表。

 また、NYを拠点とする「VIVIENNE TAM」では、色とりどりの洋服のプリント地と共布のマスクを発売するなど、マスクありきのファッションを提案。ウィズコロナの装いを示している。

 「当社のマスクのデザインに際しては、基本的には私と2人の社内デザイナー、外部のデザイナーが関わっています。プロジェクトによっては、デザインチームを作って取り組むこともあります。

 我々のデザインが大きなムーブメントとなり、多くの人々に求めてもらえるようになったことに、どのスタッフも大きな達成感を抱いています。

 また、徴収用マスクの製造のため、残業続きだった社員たちも“この小さなマスクが人々に、そして社会全体に大きな安心感を与えているのだ”という自負が芽生え、自身の役割に誇りを持って働いています。

 特に、7月末に蔡英文総統が激励に訪れた際は、労いの言葉に皆が感動し、社員の士気が一層高まりました」

2020.09.16(水)
文・撮影=堀 由美子
写真提供=CSD中衛