女性リーダーの活躍は 実力主義の表れ
中野 『フォーブス』が、コロナ対策に成功した女性リーダーの特集を掲載していましたね。
そこに出てくる国は、メルケル首相のドイツをはじめ、アイスランド、ニュージーランド、フィンランド、デンマーク、ノルウェー、台湾。
でもね、必ずしも女性のリーダーが偉いわけじゃなくて、システムの違いなんだと思うんです。
つまり、職階制を重視するシステムの国と、実力を重視するシステムの国に大別すると、後者のシステムが今回は成功したということではないでしょうか。
ヤマザキ 日本は前者の職階制の国ですね。
中野 日本などでは職位と階級が重要で、性別もそのうちに入ります。そこでは女性がリーダーになるなんてほぼあり得ないし、あったとしても必ずいじめられて、国もそのイジメに加担します。
そうなると、とてもじゃないけど台湾の蔡英文総統のようなことはできないわけです。その点、小池さんはしたたかでそういう仕組みの中を上手に振る舞っていらっしゃると思います。
女性がリーダーの国のコロナ対策がうまくいってるのは、女性だからというよりは、女性を指導者に選べる国だからなんです。実力があれば別に女性でも男性でもいい。
蔡英文総統のもとで頑張ったIT大臣、唐鳳(オードリー・タン)ですが、学歴の高くない彼女がコロナ対策に実力を発揮できたのも、台湾がリーダーを実力で選べる仕組みの国だからこそ、だと思いますよ。
ヤマザキ 職階制ではそうはいかない、ということですよね。
中野 誰それの言ったことに忖度(そんたく)する組織ではなくて、国民に安心を届けられるような政策を実行できる組織、それは職階制ではなく能力主義の組織ということでしょう。
ヤマザキ ローマ帝国が世襲制に疑念を持ち始めたのも、世襲制だとネロのように、一国を統制できるような能力を持ち合わせない人間が皇帝になってしまい、懲り懲りしていたからです。
職階制と世襲制は別物ではありますけど、制度に対して民衆が感じる疑念は同質のものですよね。どうなんでしょう、日本も様々な不具合を踏まえて、今後は実力主義のほうに向かうんですかね?
中野 幕末では勝海舟を登用したり、けっこう思い切ったことをやっているんだけど、今の日本では……。戦争後からの、あるいは明治維新以来の制度疲労が蓄積しているのでどうなんでしょうかね。
ヤマザキ 実力のある人材が現れれば良いだけではなく、実力のある人を選べる能力を国が備えていなければ、結局ダメでしょう。
中野 そうしないと日本は後進国になってしまいますよ。「科学技術立国」なんて掛け声だけで、実態が伴っていませんし。
ヤマザキ かつてポルトガルのリスボンからアメリカのシカゴへ夫の仕事で引っ越すことになったんですが、シェンゲン協定の規約で、夫と結婚する前に未婚で産んだ息子のビザがなかなか下りなくて、この事情に詳しい日本の弁護士にも出会えず、自力で法律を調べて翻訳し、法務局で確認を取ってもらうことにしたんです。
その時、民法を調べていて分かったのは、非嫡出子に対しての制度が明治時代のまま適用されていたこと。
今から10年前くらいのことですけど、すでにシングルマザーが増えている中で、こんな差別的法律はなかろうと、正直びっくりしました。3年後くらいにはさすがに改正されたようですけどね。
中野 バイアグラが半年ちょっとで認可されたのに、ピルは30年以上もかかったのと似た構図ですよね。票田に少しでも影響する要素がなければ、物事は少しも変わらない。
※本稿は『パンデミックの文明論』(文春新書)の一部を抜粋したものです。
『パンデミックの文明論』
新型コロナについての議論で意気投合した二人が緊急対談。
古代ローマ帝国から現代日本まで、歴史を縦軸に、洋の東西を横軸に目からウロコの文明論が繰り広げられる。世界各国のコロナ対策を見れば、国民性がハッキリ見える。
著 ヤマザキマリ・中野信子
800円+税(文春新書)
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
ヤマザキマリ×中野信子対談
「パンデミックの文明論」
2020.09.10(木)
文=ヤマザキマリ・中野信子
RANKING
- HOURLY
- DAILY
- WEEKLY
- MONTHLY
FROM EDITORS おやつや小ネタなどCREA編集部からのアレコレ
BOOKS
2024年10月15日発売
2024年10月16日発売
2024年10月24日発売
2024年10月7日発売