東京には「福」という字が付く立ち食いそば屋の人気店がいくつかあった。しかし、高齢化や後継者不足などでその多くが閉店してしまった。
神田錦町の「福寿そば」は2011年閉店。浜松町の金杉橋近くにあった同じく「福寿そば」は2012年閉店。笹塚駅改札を出たすぐにあった出汁のうまい「福寿草」(今の「富士そば」の所)は2013年に閉店した。
こう書くと、なんだか東京が「福」から見放されてしまったような寂しさがあるのだが、決してそうではない。今も「福」がつく立ち食いそば屋の人気店がしっかりと営業を続けている。人形町の地元民に絶大な人気を誇る「福そば」である。
「立ち食いそばだから……」という言い訳ゼロ
「福そば」は人形町甘酒横丁の交差点を小網町方向に進んで1つ目の路地を左に入ってすぐのところにある。玉ひでの道を挟んで反対側の路地である。
入口は横格子戸の清楚な佇まいで、一見すると立ち食いとは思えない外観である。店内はやや高めのカウンターが続いた落ち着いた雰囲気で、大変綺麗である。
「福そば」はとにかく上品な味を提供している。つゆは繊細かつ深みがある旨さ。天ぷらの揚げ姿は美しくかつ屈指の旨さ。麺はやや細目の生麺を使用。立ち食い故の言い訳みたいな部分が皆無なのである。
2020.02.26(水)
文・撮影=坂崎仁紀