ミス ディオールの強みは
常に新しくあり続けること

 名香と呼ばれる香りは数多くあるが、ミス ディオールは進化を続ける名香。

 香りの世界観を守りながら時代のエッセンスを取り入れ、新しい香りを次々と生み出してきた。

 なかでも爆発的なヒットとなったのが2008年に発表されたミス ディオール ブルーミング ブーケだ。

 この香りの登場で若い世代にファンが広がったのは確か。調香を手がけたディオール パフューマー クリエイターのフランソワ・ドゥマシーさんに話を聞くことができた。

「ブルーミング ブーケのクリエイションはまさに“研究”という言葉がぴったりの大きな作業でしたね。ゼロから作るのとは違って、ある枠組みの中から新しいバージョンを作るわけですから。私にとってもチャレンジでした」とドゥマシーさん。

 実は彼、フレグランス界のレジェンドと言われる調香師の一人。ミス ディオールという香りにどんな印象を持っていたのか、すごく気になる。

「ミス ディオールはいろんなエレメントを持っている非常に豊かな香り。そのバランスを変えたり、何かを加えることで新しい表現ができると思いました。ブルーミング ブーケは軽やかでフレッシュな香りに仕上げたくてパチョリやグリーンノートがキーになっています」

 香り作りって料理と似ている。どんな素材を選び、何を組み合わせてどう料理するかで出来上がりが全然違う。

「原材料そのものが香水のベースになるので高品質のものを使う。ディオールと契約をしたとき、原料の買い付けの責任も自分がやりたいと言ったくらいです。現地に行って生産者とディスカッションして情報を共有し、抽出や蒸留プロセスもすべて見ています」

 ドゥマシーさんが調香師に就任して新しいミス ディオールファミリーが続々と。2012年にシプレ フローラルという新たな魅力を持ったエクストレ ドゥ パルファンが。2016年にはグルマン系の香りをアクセントにしたアブソリュートリー ブルーミング。

 そして2019年、さらなる軽やかさを追求したミス ディオール オードゥ トワレが誕生。ドゥマシーさんの今一番のお気に入りがこの最新作らしい。

 「軽やかさは香水に限らず、すべてのトレンドだと思います。オードゥ トワレは軽さの中にもセンシュアルなイメージをプラスして」と言いながら、ジャケットのポケットから試作品のボトルが出てきてビックリ。

 「いろんな場所やシーンで香りを嗅いでみるために持ち歩いているんですよ」。ボトルをよく見ると、「No.5800」の数字が。

 「調合を何度も繰り返し、テストを重ねて、新しい香りを生み出すには膨大な時間がかかりますから、常に2年先を見て仕事をしています」と何とも期待が膨らむ言葉。

 日本のフレグランス市場も活気づいてきたし、お気に入りの香りを見つけておしゃれの仕上げに加えて欲しい。

「見えないドレスを纏うように。日本の女性にも香りの楽しさをもっと知ってもらえたら嬉しいですね」

ボトルが物語る
クチュールとの深い関係

 オートクチュールと香水の融合を大切にしてきたディオール。

 ミス ディオールの歴代のボトルにはコレクションを反映したデザインが施され、ディオールの歴史が垣間見られるほど。

 なかでもボトル口に結ばれたダガー ボウは、ディオール クチュールのアトリエ職人によって作られたのが始まりでミス ディオールのシンボルに。

 年に一度、世界で47個(ムッシュのラッキーナンバー)だけ限定発売されるスペシャル エディション ボトルは必見。

●教えてくれたのは……
ディオール パフューマー クリエイター
フランソワ・ドゥマシーさん

1971年にグラースにある天然原料で有名なシャラボ社に入り、その後も化粧品会社で経験を重ね、2006年、LVMHグループのパフューム&コスメティック部門パフュームディベロップメント・ディレクターに就任。

吉田昌佐美(よしだ まさみ)

1979年より第一線で活躍する美容ジャーナリスト。新旧の名品やブランドの歴史を熟知。情熱的な鋭い取材と確かな分析力に基づく最新技術の分かりやすい解説は、国内外のブランドの開発者からの信頼も厚い。インスタグラム「masami_cosme」

Column

吉田昌佐美のブランド魂発見!

鋭い視点からの取材力と情報の蓄積に定評を持つキャリア35年の重鎮美容ジャーナリストが、コスメブランドそれぞれの「強み」を解説。さまざまな逸品ビューティアイテムに込められた「魂」に迫ります。

2019.12.02(月)
Text=Masami Yoshida
Photo=Kenichi Yoshida

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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