お客さまには“幽玄の味”を
楽しんでいただきたい

 今回の題材として選んだのは、能の代表的な演目である『羽衣』『石橋』、そして『道成寺』である。その理由はいかなるものだろうか。

 「幽玄とは、世阿弥が能楽論で唱えた概念です。『羽衣』はまさに幽玄物であり、『石橋』も精霊の獅子が石橋を渡ることから、幽玄物とされていたそうです。さらに歌舞伎としても人気演目である『道成寺』を加えて構成しました。

 タイトルである幽玄は、英語のファンタジーとも、ドリームとも訳せない独特の世界観なので、お客さまにはこの“幽玄の味”を楽しんでいただきたいです。

 それは、通りすがりの方がご覧になったときに“あれ?”と思っていただけるようなもの。幽玄という言葉自体が、その要素をはらんでいますね。

 世阿弥は、普遍的であると同時に、“あれ?”と思わせながらも、探求していくと切りがない演劇的哲学者だと思います。

 能であれ、歌舞伎であれ、日本舞踊であれ、和太鼓であれ、それらはすべて日本の文化のエッセンスがちりばめられたものです。これらを通して、全体をご覧になったときに、幽玄という世界観に浸っていただければと思いました」

2019.09.20(金)
文=山下シオン
写真=岡本隆史、谷内俊文